幻想住人録

 

FULLMOON・ROAR-S II

 

あっ。今日はアタシが変身する日だ・・・。

アタシ?アタシはね、近藤凪っていいマス。

聞いて聞いて!アタシね、本当は獣なの。

人間じゃなくて獣。ううん、別に化けてないよ。人間でもあるよ。

お母さんから聞いた事があるの。

家の先祖は外国の貿易商で、外国の聖獣っていう伝説の動物「マルコシアス」の血が混ざってたんだって。お母さんがおばあちゃんから聞いた話だよ。

どうしてそんな血が混ざってたか判らないけれど、聖獣は普通の動物と違って羽があったり、他の動物の体の部分があったり。

そしてそんなモノの血が流れてるアタシは、自分の意志とは別に人間から聖獣の体になっちゃう日があるの。

でも、3年もたったからアタシはもう自由に聖獣の体に変身できるようになったの。

 

・・・そろそろ学校に行かなきゃとアタシは自分ちを出た。

・・・・実は聖獣になれても、人間の体の時のアタシってカナリ運動オンチ・・・。

早い時間に家を出ないと、遅刻しちゃうからなぁ。歩くの遅くて・・・。

でも、ウチのまわりって山と海しかないから、車はあんまり通らない。

海から吹く風がとっても気持ちイイの。

もう夏も終わり・・・そんな風。

学校は山の丘の所にある。そこにアタシは通ってるの。

アタシは教室に入った。早く出たはずなのにもう皆席についてた。

「凪おはよう!」

「今日も遅刻?まったく、いっつも何時に起きてんの!」

皆が声をかけてくれる中、不良グループの男子達はいつものように、後ろの席でかったるそうに話し込んでた。

リーダーの髪が赤い人、中村亘に向かって、

「なぁワタル、昨日のテレビ見たかー?超恐かったよなー、『狼男は実在した!』だってよ。俺、マジ恐くてさー。だって、人間がケモノになっちまうんだぜー」って話し掛けてる人がいた。

他の男子も

「そー!わっかる!超グロかったよ!」ってナットクしてる・・・。

なんだかムッとした。だってナンカそれ、アタシの事みたいで・・・。

すると中村亘がウザそーっに

「あー、見たけど。何アレ?超キモじゃんか。俺あーいうの大っ嫌いだし。てゆーか、あんなのいるワケないし。いたらヤじゃねぇ?」

って言った。

・・・・・ヒドイ!何?げんにアタシいるし!!と、同時に先生が教室に入ってきた。

でも、アタシ、半泣きで、それからずっと落ち込んでた。

こればっかりは友達にも相談できないし・・・。はぁ。嫌だな・・・。

 

それから今日の帰り道。トボトボと歩くアタシ。

家ってはずれの方だから、近くに誰も住んでなくて、帰る人がいないの。

そんな時、アタシの目の前に、一人の男子が何かしていた。

ゲッ!!中村亘!!

アタシは近くの茂みに隠れた。だってスッゴク気まずいんだもん・・・。

何してるのかと思ったら、ああ、ゲームか。あの持ち歩けるってヤツ。

アタシ、ゲームの事はよくわからないケド、聞き覚えのある音だっていう事はわかった。

いっつもテレビのCMでやってるヤツ・・・思い出した!!

あの獣のお化けみたいなのが襲ってきて、それを倒すゲーム・・・・あの人そんなにそういう動物が嫌いなのかな。・・・・・人それぞれだからな、ムカツクとか言わないけれどさ・・・どうしても好きには・・・・なれなかった。

しばらくして中村亘の所に彼の友達が来て、行ってしまった。

アタシは茂みから出て家に歩いた。

 

・・・あれからずいぶんとたって、すっごい夜中になった。ふふっ。

落ち込んだ時はこれが一番!

ベッドから首を出すアタシ。もちろん、体は白い羽の生えた大きな狼。

ベッドを下りて、ブルブルッと身震いした。

アタシは窓を開けて、おもいっっきり窓の縁を蹴って、2階を飛び出た。

それから、海からの上昇気流をつかまえて、アタシは空高く舞い上がった。

うん、今日は西からの風がけっこう強いみたいね。

速く飛ぶにはもってこい!

アタシは物凄いスピードで空を駆けた。

山なんかすぐに越えてしまい、宝石のような夜景の街が見えた。

ここまで来たならちょっと都会見物。高層ビルの上で羽を休める事にしたアタシは、山より高そうなビル群に下りた。

・・・・とってもきれいな夜の街。ふと、好きな人の事を考えた。

今度一緒にこういうトコを見たいな・・・なんて。

恥ずかしくなったアタシは、ビルの屋上の端に足をかけて、狼の気分を出そうかと遠吠えしようとした・・・と、その時。

物凄い恐い、そして猛々しい生物の鳴き声が聞こえた。

何?隣のビルに何かいる。

犬は近眼なんだケド、アタシは聖獣。

人並みには見える。・・・・見える事が幸か不幸か。

アタシの青い目に、見た事もなく恐ろしげな怪物の姿が映った。

・・・蛇?・・・ちがう。体が馬みたい。前足はライオンかピューマ。

後ろ足は鳥の様。翼が生えてて、しかも尻尾は頭よりも細い蛇になってるし・・・。

大蛇の頭には強そうな牛みたいな角が。何?

アレは何なんだろう・・・??

 ・・・とりあえず逃げよう。

本能も理性も一致したアタシは、体を動かしてしまった。それが悪かった。

アタシの白い体は、街からの色彩々な光を反射して、虹色に輝いていた。

怪物はアタシの方を向いた。

アタシも怪物を見てしまった。

怪物の金の瞳が、まるで獲物を見つけた恐竜の様で、アタシは体の震えが隠せなかった。

・・・でも、もしかしたら、草食かも・・きっとおとなしいよ!

見かけで判断はダメだなーアタシってばぁ・・・

そんな事を考えてても冷や汗は滴り落ちる。

・・・ダメだった。

グェェーとかギョオオーを混ぜた様な声も高らか、怪物はアタシに向かってビルから飛びかかってきた。

「わーーーっ!!ごめんなさーい!!!」

何で謝ってんのアタシ・・・。早く逃げればいいのに・・・・・足がすくんで動けなかった。

怪物がアタシの首筋に噛み付こうとした時。

「やっやめてェー!!」っとアタシは言葉とは違う事をしていた。

ビルの床に仰向けになった瞬間に、アタシは思いっきり怪物を後ろ足で蹴っとばした。

・・・とりあえず助かった。

怪物は2、3メートルふっとんだ。ケド、ちゃんと着地した。

そのとき、怪物は

「・・・おめェ・・・やるじゃねェか・・・!」

と、唸った。

・・・言葉が通じた。それにその声はよく知っていた。

「中村・・・・亘?」

「・・・何だ!?お前何だよ!?誰だよ!?」

当たっていた。それに近くで見たら、蛇の頭から少しだけ、赤いたてがみが生えていた。

「アタシ近藤だよ!?わかるでしょ?」

「・・・お前、俺と同じ体質だったのか・・・!でも、俺のこの醜い姿と違うじゃねェかよ・・・この『ムシュフシュ』の体と・・・」

「むしゅ・・・?アタシの種族はマルコキアス!違ったっていいじゃないっ!?」

そんな事を言うんじゃなかった。

「るせェよ!俺はテメーの姿も俺の姿も大っ嫌いだよ!!この世から消えやがれっ!!」

彼の前足から爪が出た。アタシの何倍もありそうな肉食獣の爪が。

その爪でアタシに飛びかかってきた。

誰か知ったからアタシの体は自由がきいて、横っとびでビルから飛び立てた。

でも彼は「こんな事もできるんだぜェッ!!」

と大きく息を吸って、吐き出した。

それは炎だった。

「うっわあああああっ!やめてよ!!」

アタシは怒り混じりだったんで、やけくそに彼に突っ込んだ。

彼の首をくわえてアタシは思いっきり左につねった。

すると、彼は大きく横転した。

「ぐぇっ!!」

勝負は決まった。

 

「なんで嫌なの?」

中村亘とアタシは、向いながら座っていた。

中村は少し暗く、

「だってョ、俺なんか・・・おめぇはいいよ、ただの犬だし」

「犬じゃあないっ!!狼!!」

アタシは突っ込むように怒った。

「俺の体見ろよ!!何だよコリャ!知ってるか!?『ムシュフシュ』ってのはぁ、結構な化けもんだ!!よく見ろよ!!どー見ても悪者じゃん!!どーよ!?」

「どーよったって・・・アタシだって悪魔っていうカンジらしーし、どうとも・・・」

「俺は神サマの乗りもんでもある・・・だけど!だけどよ!!醜いんだよ!!最近、ゾンビだの恐竜だの殺して楽しむゲームが多いじゃねェかよ・・・・つまり、俺さまの事、殺したがってんだよ!!俺みたいなキモいやつを!!・・・・なら死んでやろーじゃねェか・・・」

いきなり中村は立ち上がって、羽をしまった。そして・・・・

「何すんの!?中村君!!!」

そのまま、中村はビルから身を投げた。・・・・死ぬ気だ。

「何考えてんの!?そんなのただの自己嫌悪じゃんかーーーっ!!」

続いてアタシもビルを降りた。

いつの間にか涙が溢れていた。

アタシは急降下して、もう気を失っている中村の首根っこをくわえて、そして、思いっきり羽ばたいてみた。

・・・でもアタシの3倍ちかくある彼の体は、勢いが付き過ぎていて、落下は止まらない。

「起きてーーっ!!中村君!!」

もう自分もきっと気を失いそうになってた。・・・・その時だった。

急に落ちるのが止まった。

まだ、ビルの上の方だから、下の人たちは気付いてないみたい。

そして、アタシはアタシよりも大きい何かがアタシたちを助けたのに気付く。

そのまま、その何かはアタシの何倍もある飛翔力で、またビルの屋上へアタシ達を戻した。

・・・・大きな鷲の翼、王者の姿。グリフォン。

・・・・・レニアスだ!

 

レニアスはニコッと笑った。

「どうして?」

嬉しさと驚きで、アタシの声は裏返っていた。

「今日越してきた街を眺めようかと散歩していたところさ」

その途端、アタシは涙が溢れだした。ありがとう。ありがとうレニアス。

そう言いたかったのに。

アタシはレニアスに首をかけて大泣きした。

レニアスは、何もかも判ったかのように、大きな羽をアタシにかぶせた。

眠らない夜景が、あたり前のように光ってた。

 

 

次の日。

聖獣だった時の疲れは残らないから、爽やかにアタシは起きた。

ニュースで『ビルの上のぼや』とか言ってる。

バレてないみたいだね。

ぼーっとしながらアタシは登校して、席に付いた。

いいあったなぁ・・・。

すると、頭に何かぶつかった。

「痛いっ!!」

思わず頭をおさえると、当たったのが、紙に巻かれた消しゴムだってのがわかった。

何だろう・・・アタシは紙を開いてみた。

「昨日はいろいろとありがとう。レニアスって奴にも言っといてくれ」

汚い字だった。

振り向いて見てみると、中村がじっとこっちを見ていた。

イスに寄り掛かり、机に足を上げて。

笑顔でアタシは前を向いた。

するとアタシの前の席の友達が

「何!?アンタもしかして亘とできてるとか!?」

と、と物凄く驚いた顔で囁いた。

「違うよ!」

呆れた声を返してやった。

すると「それはそうと、今日は転入生来るらしいよ♪」

・・・何だか嬉しそうな声が返ってきた。それと同時に先生が教室に入ってきた。

「おはようございます」

学級医員が起立をかけて挨拶をした。すると先生が

「ああ皆、今日は新しい友達が来たぞ」

と、後ろにいた生徒を前に出した。

金髪だった。地毛で。目も青かった。

そして、あの聞きなれた声がした。

「西崎レニアスです!よろしくお願いします!」

アタシと中村は呆気にとられていた。

「レニアス?」

前から2番目の席のアタシは、思わず立ち上がった。

中村もひっくり返りそうになってた。

皆、アタシの方を見た。

やっちゃった・・・・。

アタシは真っ赤になった。

「よろしくね!凪!!」

レニアスは「グリフォン」の時とおんなじに笑ってみせた。

 

・・・自分が気持ち悪いとか!カッコ悪いとか!

人がどうとかって、ただ自分を追い込むだけだと思うよ。

もし、そこで負けたら、これからあるだろうきっと楽しい自分の歩く道を失う事になるでしょ。

絶対に、自分と同じ仲間に出会えるんだから。

生きてれば、必ずね。

負ける事の方が、カッコ悪いんじゃないの?

 

凪より

 

END

 

 

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