しりとりゲーム
僕らは最初は単なる暇つぶしのつもりでやってたんだ。
「なあ・・次、大吾だよ」
「わかってるよ、今考えてるんじゃねェかよ」
「うっそだー、今ダイ君寝てたよ−」
今日は専門学校のバンド仲間が僕のアパートに遊びに来ていた。
僕は今川ヤキオといって、ギターをひいている。ハヤビキ系。
練習がない日はほとんどと言っていいほど僕の家にミーティングを理由に集まる。
といっても、ただマッタリとした時間をすごす事が多い。
今日はボーカルの小此木アキ(おこのぎアキ)と、ベースの御手洗大吾(みたらいだいご)が集まってきた。
ドラムの谷津橋は半月前に死んだから、しばらくバンドの練習はできない。
今日は天気も悪くってなんだか肌寒い。
外に出る気もなく、やはり、いつも通りみんなでマッタリタイムを楽しんで(?)いた。
今日に限って何も話題がなくて、二人とも漫画本とかを読んでる。
僕はまた言ってしまったんだ。
「な、アキ、大吾、しりとりやんないか?」
「またぁ?」
「ヤキオ、そーーーんなに暇なのか?」
「なんだよー、お前らも暇だから僕んち来たんだろ?」
二人とも僕の家の本を読み尽くす気だ!!
僕は全部読んじゃったんだ。ここは図書館じゃないんだ。家を貸してる僕が何もする事がなくボーッとしてるのは割に合わない。
「っていうか、ガキみたいじゃない?」
アキは大人ぶった事をいつも言うけど、見た目は中学生。今もあるのか分からない言葉だけど、孫ギャルっていうのかな?もう一度言うけど見た目だけ。
シルバーのロングヘア−は、まるで人形の髪の毛だ。痛みまくってるしさ。
「小学生のころよりも、ボキャブラリーって増えてるじゃん。前にもしたろ−、いいじゃん」
「まじでいってんのー?またーー?」
「まーまー、アキ、いいじゃん。ヤキオがここまで言うんだから。ゲームといっても、真剣勝負だぜ。俺好きだぜ、しりとり」
スキンヘッドで大柄な大吾が言うとなんだか迫力がある。だけど、僕らは大吾の性格を知っているからそんな事ないけどね。こいつ、リスとかハムスターとかいっぱい飼ってるんだ。ペット達と赤ちゃん言葉で会話しているという風の噂(アキがたまたま見てしまった)も耳にした。
「ねえ、今回のルールは?」
大吾とアキの言葉で僕はさっきから考えていた事を言った。
「ルールは必ず言った物を見せなくてはいけない」
「へぇ」
「ふーん」
「で、まちがって『ん』を語尾に言ったり、答えられなかったらシッペな、シッペ」
「はいはい、お決まりのあれね」
そして、しりとりゲームが始まった。
僕の部屋のテーブルの上には様々な物が集められた。
しりとりで出た物の集まりだ。
もうかれこれ2時間はやってる。
順番は僕、アキ、大吾の順。
テーブルの上はリンゴから始まって、ごま塩、オレンジジュース、するめ、眼鏡、寝間着、教科書、ヨーグルト・・・・今は僕の番で『デ』のつくものを探している。
2時間もやればほとんど言い尽くしたような気がするし、テーブルにのせきれなくなって、畳の上に「ブツ」たちが転がっている。
『デ』ってあるかな。負けたくないしな。シッペは絶対にごめんだからな。
「・・・・・デ・・デブ・・・」
「え?なにそれ?」
「だから・・・デブ・・・・」
「それって・・・俺たちに見せられんのか?」
「・・・・・これ・・」
僕は大吾を指差した。
「・・・・俺か?『これ』って・・・・俺の事か!?き・・気にしてる事言っただけじゃなく、物みたいにいいやがったな・・」
大吾はまだ何か言いたげに腰をあげたけど、ぶすっとしたまま、また座った。
「わかったよ・・・デブな・・」
「まーまー、で、私の番か。『ブ』ね・・・・ええ、どうしよう・・・」
「アキ、いいんだぞ、ブタでも。俺を指差してな」
「なあ、大吾、根に持つなよ−。じゃあ変えようか?」
「いまさらいいよ」
「えーとね、『武器』!」
「?」「?」
?マークを頭から出す僕らの目の前で、おもむろにアキはポケットから出したナイフをテーブルに突き立てた。
「私さ、痴漢対策の為にいつも持ち歩いてるんだ。グサグサ♪」
「オ・・オッケー・・・・じゃあ、『キ』な・・・」
大吾はアキの方に顔を向けた。
だけど、アキがその大吾をじっと見つめると大吾は顔を赤らめて、今度は僕の方に顔を向けた。
そして、突然僕に襲いかかった!
「わっ!!おいっ!大吾!!な・・・何すんだ!!!いきなり、さっきの仕返しかよ!!ぶわっぶぶっ!!」
「アキにするわけには・・・・ぷふっ、いかねぇだろ!!」
大吾は突然僕の口にキスをしてきた。
にんにく臭かった。
大吾は息切れをしながら、腕で口元をふきながら言った。
「『キス』!」
「きったねぇなぁ!かんべんしてくれよっ!」
「ねぇ、キスだったら、わざわざ口にしなくても、ホッペとかでもよかったんじゃないの?」
「ゲッ・・しまった!」
僕は吐き気をこらえて『ス』の付く物を考えた。『ス』も結構出ているので、もう何を言ったか覚えていない。
僕はとっておきの物を引き出しから出して、テーブルに置いた。
「なんだ、それ?薬か?」
「そう、スピード」
大吾が僕の襟首を掴んだ。
「お前!!ヤク御法度だって言ったろ!!」
「だって、ギタリストはみんなやってるじゃないか」
「お前、いままでずっとキメたまま練習出てたんかよっ!!」
「ちょっと、二人とも、その問題は後にしなよ。とりあえず、このゲームちゃんと終わらせない?」
アキも本気でバトルする気だ。僕はさっきから本気だけど。
「じゃあ、私ね」
アキはいったん僕のアパートから出て20分後に戻ってきた。
そして、おもむろに『土偶』を出した。
一体どこから発掘したのだろう・・?『ウ』で終わる。
大吾も外に出た。そして、部屋に『乳母車(うばぐるま)』を押して入ってきた。中には赤ん坊がスヤスヤと眠っていた。この赤ん坊が大吾の親戚か家族である事を祈る。
僕には『マ』が回ってきた。
いよいよこれを出す時が来たな。
僕は手の中に握っている物を振りかぶって、投げた。
燃える魂の白球は僕の手から離れ、大吾の顔面に向かって飛んでいった。豪速球だ!!
大吾は自分に向かって飛んでくる野球ボールを寄り目で見ていた。
大吾の顔面にヒットする寸前で、僕の燃える魂の白球は消えた。
「くっくっくっ、『魔球』だよ、アキ、『まきゅう』の『ウ』な、はっはっはっ」
大笑いする僕の顔を、憎悪の顔で睨み付ける大吾。
アキは上着を脱ぎ、トレーナー一枚になる。
僕と大吾はどきどきしながら、手首の包帯に目をやる。
アキはウルフルズの「ガッツだぜ!」を鼻歌で歌いながら包帯をほどく。
アキの手首には深い傷があり、傷の間には白い何かが詰まっている。
アキは手首の傷を下に向けて、テーブルの上でポンと自分の手を叩く。
バナナに白い蛆虫がボトボトと落ちて蠢いた。
アキの『うじむし』は肥えて太っていた。どうやら、アキは腕のほとんどを侵食されているらしい。
大吾は負けじとカッターで指を切り、血にまみれながら『指骨(しこつ)』をみんなに見せる。
僕はまたまた自慢の品物を見せる事となる。世紀の大発見『つちのこ』。
大吾はまだ幼稚園くらいの『子供』を連れてきた。大吾の親戚か家族である事を祈る。
もう夜中だ。
僕の部屋は座り所もないくらいになった。
『地蔵』『ふんどし』『食虫植物』『ヤンバルクイナ』などの一般的な物から、『エーテル体』『どこでもドア』『キリストの血』『モケーレ・ムベンベ』など珍しい物もあった。
普通なら、2階にある僕の部屋は1階の部屋を潰してしまう。
だけど、異常な空間は僕らの脳内だけでなく、部屋にまで及んでいた。
顔を土色にさせたアキと、血の流れ過ぎで青白い顔の大吾は、まだやるきまんまんだ!
アキは黒いゼンマイのからまった、金色のトカゲの像を出した。
「『グリゴリウメ』様よ」
「へー、これが・・・」
「初めて見たぜ」
大吾は真っ赤な筒を出す。筒の中からは規則的に青く光る球体が、距離を保ちつつ、無数に現れてはひっこんだ。
「これが『メムゴ・メ・ムスゥラ』だ。」
「すっごーーい!かわいい!!」
「大吾、いいメムゴを持ってるな、負けないぞ、俺は『ラソメン・ホッツォ』だ!」
僕が両手を広げると、大きな宇宙意志『ラソメン・ホッツォ』がやってきた。
『ラソメン・ホッツォ』は宇宙を支配する意志で、混沌の中に永遠に呼吸する感情『グリゴリウメ』よりも、もっと魚臭い。
大吾とアキが笑った。
「ヤキオ、それ2時間前に言ったぞ」
「そーよ、ほら、あそこのステルスの後ろに隠れてるじゃない。もう、二個ももってきちゃってー」
「やっべー、じゃ・・・・僕の負け?」
僕は二人からきついシッペを貰う事になった。
ああ、シッペはいやだ・・・。せっかくがんばったのに!!
長い闘いだったけど、僕の忘れっぽい脳味噌が敗因となってしまった。
このバンドはドラムだけでなくギタリストもなくすのだ。
ドラムの谷津橋も俺たちと1ヶ月前にやったしりとりで負けて死んだのだ。
俺たちの敗者への「シッペ」は「尻閉(しっぺい)」で、肛門にアロンアルファを流し込み縫うのだ。
肛門の役割は果たせなくなる。
「尻取り」というゲームに相応しいとは思わないか?