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風の翼 

 

 

私は恋をした。

 

名前も知らなかった。

そうなんだ。名前も知らなかったんだ。

ですがね。

そんな恋があってもイイと思ったのは、これが禁じられた恋かもしれないと思い始めたからなんだ。

思い始めたのは、もう時がたって、私が年老いてしまったからかもしれない。

 

その少女――正しくは幼女なのだが、少女と呼ばせていただきたい――と出会ったのは、ある寂しい公園だった。

マシュマロの様に柔らかそうな頬は、薄紅色だった。

そして、それが初めて見る薄紅色だった。

何も会話はなく、そして、なんの必然性もなく、少女は私の唇に小さな唇を重ねてきた。

少女の唇は、大人びた粘膜に包まれているわけでもなく、まったく不快という言葉とは遠くにあるもので、私を夢心地にさせた。

少女はややあってから薄紅色の頬をさらに紅潮させた。

私は恥ずかしながら接吻というものを初めてする。

こうして考えると、初めて尽くしだ。

少女はこんな時、どこを見ているのか気になった。なるほど。きっと少女は私とそうして接する事で精一杯だったのだろう。目をきゅっと瞑り、眉間に蒲公英の花弁一枚ほどの皺を作っていた。

少しして少女の唇が、私の唇から数ミリ離れた。

その途端暖かい吐息が私の顔にかかり、ミルクのような香りがした。

少女はやや呼吸を荒くさせ、急ぐようにまた唇を交わしてきた。

私は興奮し・・・あらぬ気持ちが膨張した。

今まで張りのなかった世界観が、禁断という糸を伸ばされた事によって艶やかなほど張り詰めた。

 

私は彼女を取り込みたいと感じた。

いや、実際にこうして唇を重ねている事は、彼女の気持ちを取り込んでいる証拠なのではないだろうか。

ならば、少女は私の一部なのか。それとも私は少女の一部であるのか。そう考えると、私の気持ちは興奮のあまり張り裂けそうになる。交わる。彼女の唾液が私の唇の隙間に流れ込む。私も送り込みたいがとても乾いてしまって、諦めざるをえない。本当に張り裂けそうだ。

それは困る。

まだ、少女を体感しながら、悦に入っていたい。

触れば壊れそうな彼女を、もっと狂わせてみたい。幼い女が初めての感覚に怯えながらも抗えないという現実をリアルに見てみたい。

 

気がつくと私は少女の胸に抱かれていた。

大人の持ついやらしい隆起は感じられない。

しかし、布一枚向こうに彼女の素肌を感じる。

乳房と称していいものかわかりかねる、その幼き母性部分に核を探してみるも、私の鈍感な感覚では見つける事ができなかった。

私は体をまさぐられ、私もできる限り少女の体を愛撫した。

 

ふと、彼女のあらわになった足が見えた。

短すぎるスカートの下には、白すぎる、余りにも白すぎる柱があった。

私の妖艶な妄想を振り払おうかとするような、よい風が吹いた。

しかし、それが逆効果であった事を、言い訳としてここで言っておく。

 

風が少女の短すぎるスカートをめくりあげた。幼い彼女でも、相手に性を意識されると動物的に感じたのかもしれない。彼女の両手は私の体から離れ、スカートにいった。

私はというと、これもまた恥ずかしながら、舞い上がってしまったのだ。

 

しかし、妙なガスではなく、彼女の息吹をもらった私は、天高くは飛ばなかった。

横からの風に流されるように、私の思いは見上げる彼女の目の前から少しづつ、名残惜し気に去った事だろう。

 

私は風の船。

あなたとの接吻を思い出に、その思い出を翼に変えてどこかへ飛んでいこう。

 

私はそういう短いながらも素晴らしい人生と恋をしたのさ。

もうこのままあの木の枝に掛かって死んでいこう。

唯一の救いは、淋しさでこの身が張り裂けずに、静かに萎れていく事ができた事だ。

ほおら、木の上はいい。最高の最後の場所だ。

 

いつか、私が大きな船として生まれ変わったら、あなたを私の船に乗せてあげたいものです。

あなたがくれた翼のお礼に。

 

 

 

 

 


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