紫鏡 後編
私は病院の個室部屋のベッドで目が覚めた。
それほど記憶を辿らなくてもすぐに何があったのか思い出せた。ただ、それは夢だったのか、現実だったのかは分からない。
「よかった、死んじゃったかと思ったよ」
聞きなれた声がした。
「せ・・つ・・・」
「はーい、セッコでーす」
私は気分が悪くなった。
「・・・・何がセッコよ・・・誰のせいでこんな目にあったと思っているの?」
説子は私が寝ているベッドに腰をかけて、誰かが持ってきてくれたリンゴをまるかじりしていた。
「あれ、血が出てる・・歯槽のう漏かしら・・・」
「セツ!!!!!!」
「ちょっと、他の患者さんもいるんですよ、静かにして下さい!」
すぐにドアから太った若い看護婦が入ってきた。
「す・・・すいません・・」
「あら、気がついたんですね、まだ安静にしていてね。お腹のなかの子は大丈夫。あとで血圧とかはかりにきますから」
用件だけを言い看護婦が去った後、説子は次に何の果物を食べるか、物色している。
「・・・・・・・・」
「気にしないの、美喜・・・・万事オッケーだよ」
「セツ・・・・・あいつ・・・・あの紙を」
「しってるよ、現場にいたもの、私さ。」
私はきっと、説子を「なにこいつ、信じられない」という顔で見てたと思う。
「困った事はね、美喜・・・・あなた、死者に呪いを返されたって事なのよ」
説子は真顔になって振り向いた。
その意味はよく分かった。
説子が私に教えた『紫鏡』のシステムを知った時、これほどいやらしい呪いはないと思った。
この言葉を二十歳までに覚えていたら死ぬ。
私は直樹に呪い返しをされたのだ。
あいつの自殺現場で、道路に大きく血で書かれた『紫鏡』。
私の夢でなければ、気を失う前に警察が言っていた事は直樹の執念なのだろう。
完全に即死状態で起き上がり、みんなの見ている前で地面に自分の血で書いた。
これほど、記憶に焼き付かせられる出来事はないだろう。
きっと生涯の記憶に残るに違いない。
直樹は紫鏡という言葉が意味するものを知っていたのだろうか?
それで私に倍返し?
冗談じゃないわ!あれは、説子が書いたものなのに!!
「あ・・・ちょっと・・・待って・・」
「なーに、リンゴむいてほしい?」
「あの自殺現場に・・・これから二十歳を迎える人間が他にもいたら・・・」
説子は笑った。
「当然いたでしょうね。あそこの駅前ってガキがよくたむろってるじゃん!」
「やだ・・・巻き添え食わせちゃった・・」
両手で頭をおさえて悩む私に、ナイフが突き付けられた。
「セツ?」
「美喜、あんたバカじゃないの?自分の命の事だけ考えていればいいのよ。私はいっその事、紫鏡を昔のクラスメート全員に教えてやりたいわ、成人式には何人来るんでしょうね!」
私、カチンときちゃってさ。
「セツ、あんた、そんなだからいじめられるんだよ!」
今まで溜めていたものが爆発したようだった。
説子の表情が変わった。
「いじめる方にも原因はあるよ、だけど、セツのそういう陰険なところが皆嫌いだったんじゃないの!?」
今まで気がつかなかったけど、テレビがついていたみたいで、テレビの中の女の人は、低めの声で話していた。
「・・・という奇怪な事件が起こったわけですが、今日になって、同じ関連ではないかと思える事件が起こったのです。『紫鏡』という言葉がそのキーワードとなっています。」
私はテレビを凝視し続けた。
「今日の午後、秋田県K市の春日町団地から、2名の自殺者が出ました。香取美奈子さん20歳。小川弘次さん20歳、そして、F市の松田町エンジェルハイムの屋上からも、大曽根拓弘さん20歳が飛び下り自殺をしたのです。この3人に共通されるものは二つでした。」
説子は面白そうにテレビの前にイスをおいて座った。
「まず、自殺した3人の方たちは今日が二十歳の誕生日だったのです。」
私は嫌な予感がした。
「そして、この3人には遺書らしきものが残されていました。それはたった一言」
紫鏡
「・・・と書かれた紙を握っていました。」
説子はまるで、自分の彼氏を紹介するようにテレビ画面を示した。
「美喜・・・・私をいじめていた人間だけじゃない。これから私たちを虐める可能性のある人間も死ぬんだよ。これって最高じゃない!?」
「セツ・・・・まさか・・・」
「みーーーきぃぃぃ。あなたは・・・・私を裏切らないでしょう?さっき言った言葉も・・・・忘れてあげる。だから・・・これからはもっと仲良くしてね」
「ふ・・・ふざけないでよ!!!あんた、何言ってんのよ!!!返してよ!!直樹を返してよ!!」
「殺したかったんでしょう?子供もおろせって乱暴したんでしょ?私に感謝しなさいよ」
私は説子を拳で殴っていた。
すぐに騒ぎを聞き付けて看護婦さん達が入ってきた。
「ちょっと、なにをしてるの!?」
看護婦の腕を振り払い、説子は私に近付いてきた。
「えっくしゅっ」
顔を歪ませてくしゃみをする。鼻からは真っ赤な血しぶきが飛んだ。
「あ・・・」
説子は両手で鼻から流れる血をおさえて立ち止まった。
「この呪い・・・・もう止まらないからね・・」
説子は涙目になりながら言った。
看護婦たちが手当てをしようと声をかけたが、説子は無視して病室を出ていった。
死んだなんて信じられなかった。
直樹・・・・恨んでいるだろうな・・。
ああ・・・このお腹の子・・・・・どうすればいいのよ!
テレビもたいして付けてる意味もなく、ただ連続自殺の事をずっとニュースでやっているだけなので、消灯まで時間が少しだけあったけど消してしまった。
しばらくいろいろ考えていたけど、精神的にまいっていたせいもあって、いつの間にか眠りに陥っていた。
かつん
かつん
なに?
何かの音で目が覚めた。
看護婦さんが消したのだろう、病室は真っ暗だった。
夢でも見ていたのか?それとも、夜勤の看護婦の足音だろうか?
かつん
それは窓から鳴っていた。
かつん
なに?何の音なの?
かつん
私は枕元の電灯のスイッチの紐を引っ張った。
窓に何かが当たっている音だ。
かつん
だが、外が暗くてよくわからなかった。
私は「わからない」というのが嫌なので、窓をあけると、生暖かい風が吹いてきて私の髪の毛がなびいた。
と、顔に何かがと飛んできてへばりついた。
紫鏡
と大きく書かれた紙だった。
私は腰が抜けて冷たい、エタノールの匂いが残る床に座り込んだ。
そして、窓で音をたてていた正体が分かった。
それは人間の足だった。
ちらりと見える白い服・・・・看護婦だろう。そこで首でも吊っているのか、足がプラプラと揺れているのだ。
足には片方だけスリッパをはいている。
「いやああああああ!!!!!!!!」
私はどのくらいの時間絶叫していたのかな?
走って走って走って走って・・・・・・
おかしいよ、いくら夜の病院だからって・・・・この声を聞いて誰も起きてこないの?
看護婦はいないの??
私はエレベーターに乗ってすぐに一階のボタンを押した。
一階には誰もいない。ほっとした。頭上では電灯が一つだけ付けられている。
チカチカ点滅して、今にも消えそうだった。
真っ暗よりも嫌だった。
私、何から逃げているんだろう??
説子?・・・直樹?・・・それとも『紫鏡』!?
私は考えた。
病院を出てもいい。
だけど、それが安全な答えなのか?
なんでかわからないけど、私の周りにムラサキカガミが付いてくる。
だとしたらやはり・・・・・・説子・・・。
説子は私に何の恨みがあるっていうの?
「みーき」
後ろから髪の毛を触られた。
いつの間に背後にいたのだろう。
説子の声だって事は分かった。
だけど・・・・薄暗い病院で聞く彼女の声は怨霊の囁きに聞こえた。
「せつ・・・・どうしてここに・・・」
私は後ろを振り返らないで、すぐ背後にいる説子に言った。きっと声は震えていたと思う。
すると答えの代わりに、背後から何かが目の前に回り込んできた。
「!」
それは私の顔だった。
紫色の死んだような顔。
だけど、それが鏡だということに気が付くのに数秒もかからなかった。
「美喜、これはただ、鏡面を紫色に塗っただけのものだよ」
だからなんなの?
声には出せず、ただ硬直する私。
「紫色の肌ってさ・・・気味悪いよね・・・・そりゃそうよね、死体の色だもの」
「・・・・・・・・せつ・・・」
「腐って・・・・触ったら肉がぼろぼろ落ちる状態の肌の色なんだよ」
「なにか・・・・・私、せつにした?」
すると、説子は背後から両腕で抱き締めてきた。紫色の鏡を握りしめたまま。
冷たい感触だった。
「自分の死に顔が見える鏡・・・ファンタジーだよね」
私はゆっくり振り返った。
説子の顔は私の目の前にあった。
そして、説子は私にキスをしてきた。
「ぶはっ、な・・・何してんの!!?」
私はよろけながら説子を振り払った。
「好き・・・・好きだよぅ・・・説子、好きだったの」
説子は両手を広げて近付いてきた。
私は後ずさりながら説子を睨む。
「恐い顔・・・しないでよ。これからもずっと友達でしょう?」
「せつ・・・・この病院の誰かが首を吊ってた・・・あれはあなたの仕業?」
「罰よ・・・さっき、私達に怒鳴ったでしょ?楽しくお話ししてたのに」
「殺したのね?」
「あの看護婦、どこかで紫鏡を知ったのね。私が思い出させちゃった。」
説子はまるで昨日観たドラマの感想を言っているように笑いながら言っている。
「せつ・・・・・・あなた・・・誰?」
説子は不思議そうに私の顔を見た。
「なにそれ?どういう意味?・・・親友の説子じゃない」
「もうやめて!!あなた、何したの!?どうしてこんな事が起きてるの?紫鏡ってなんなのよ!!」
私の声は病院に響いた。説子以外の耳には届いていないのだろうか?
「死神・・・だよ」
「・・・・・・・・・・死神?」
「美喜・・・・私はあなたしか信用できないし・・あなたしか愛さない・・・。だから、守ってあげるの。その為に死神になったんだよ・・・・・・私達以外の人間は・・・いらないでしょ?」
私は気が遠くなった。
非現実的な名称だった。
死神・・そう、そう呼ぶしかない。たった一つの言葉で人間を死にいたらしめる力を持った存在なんて・・・死神しかいない。
「せつ・・・・とにかく・・・やめて」
「やめないよ。言ったじゃないもうこの呪いは止まらない・・・」
説子はふいに遠くを見るような目つきになった。
「それに、誰にもみんな・・・死神は付きまとっているんだよ?死ぬ事を恐れている人間程・・・臆病で・・・一人では何もできないくせに・・・人数が集まると強くなった気でいるクソ野郎どもたち・・・。」
「せつ!!!」
私は説子に渾身の力を込めて体当たりした。
説子はよろめく。
私は病院から脱出する事に決めた。ガラスドアに体当たりする。
だけど、鍵がしまっていて逆に私の体がはじき飛ばされた。
「イタッ!!」
突然の激痛がお腹にきた。
「美喜、だめだよ。お腹の中の子供・・大切にしなくっちゃ。私達の大事な子でしょ?」
狂っている!説子はもうここにいない!いや、もともと説子は狂っていたんだ!
いじめられている説子をかばったり、いつも一人でいた説子をかわいそうに思って遊びに誘ったりしていた。
後悔したってば。
説子の中で、「友情」なんて芽生えていなかった。
もともといじめられ続ける環境にいたんだもの、「友情」って何か分からなかったんだわ。
私が友情だと思っていた彼女との長い付き合いは、説子にとって、屈折した「愛」になっていたんだ!
「美喜、私ね・・・・直樹と寝たよ」
何を言っているの?
「あなたを奪われるのが嫌だった。だから、私があの男と寝たの・・・。馬鹿だよね。男って。私が美喜に冷たくするようにお願いしたら・・・・お腹蹴った!って・・・・・美喜
にひどい目に合わせてさあ、・・だから死んでもらったの」
「もう・・・・やめて・・・・・」
私は気が狂いそうになった。限界だった。
「紫鏡・・・・二十歳まで覚えていたら・・・死ぬ。簡単な約束だよ。・・・約束ってのはね、守らなければならない事とか、破ってはいけない事なんだよね・・・・。ルールかな」
説子は震える私の頭を撫でた。優しく・・・優しく・・・。
「言葉に意味なんてあると思う?・・・・ゲームと同じ、プログラミングされたキーワードなのよ。」
狂う。狂ってしまう。私は直樹を取られただけじゃない。親友だと思っていた・・・ああ、もう考えるの限界!狂っちゃう!!
「紫鏡は・・・ただ、二十歳になった時に思い出したり、覚えていると死ぬってだけのキーワード。・・・・でも、安心して。私を信じて・・・・・美喜。」
うるさいよ!もう・・・壊れるから・・。
「じゃあ、私と紫鏡の事は少し忘れててね」
「一回でーーーも妊娠♪」
これなんて歌だっけかな。でも傑作。
これで楽になれるのかな。
直樹・・・・どこにいっちゃったのかな・・・。
私とお腹の子を残して逃げたのかもしれない。
いつも言っていたもんな。
「子供はきらいだ」って。
子供ができたって言った時のあいつの顔ったら・・・。
「今、俺たちが育てられるわけねぇだろ?」
「お前の親父に殺されるよ!」
「お前だってまだやりたい事たくさんあるんだろ?」
結局、自分が一番かわいいんだわ。
あいつ、そろそろ誕生日だわ。いよいよ、二十歳だってのに・・・。
大人としての自覚ってのがないのね。
そういえば、せつ・・・・嫌なこといってたなぁ。
なんだっけかな。
まあいいや、死のう。
「新庄さん!血圧はかるわよー」
白い服・・・看護婦。なんでいるの?
「もう、手首に何当ててるの?あ、また手首に落書きしてる。はいボールペン、こっちに置いて!」
剃刀、返してよ。
「ねえ、そろそろ起き上がれる?ちょっと運動しましょう?」
「だめ、お腹の子・・・・いるんだから」
いるんだよ。
「もう、あのね、それは違うの。新庄さんは、頭の中で妊娠したと思っているのよ。ね?だから、妊娠はしていないの?」
「直樹の子供だもん・・・・・。私が死んだら、お腹から出してあげて?」
「もう・・・・そんな事できるわけないでしょう?」
「むら・・・」
「なあに?新庄さん」
むら・・・・なんだっけかな・・・。
とっても大切なような、思い出したくないような・・。
「じゃあ、血圧はかりますよ。腕を出して下さい。」
「めずらしいケースのクランケだな。」
「ええ、私もこんなケースは初めてです。クランケの記憶は一部が完全になくなっていて、何があったのかも分かりません」
「で、あの病状に遺伝性の確率はないのか?」
「いえ、遺伝性でもなく、感染はしない事が分かりました。ただ、秋田県民の二十歳を迎えた者たちで死亡した者は、今日に入って、3500人以上だと・・・・・・」
「今後も増えそうだな・・・」
「呪いでしょうか・・・」
「やめたまえ、君はオカルトに興味でもあるのかね?」
「いえ、ですが・・・・あり得ない事ですよね・・・。人間の胸に蝉の発生気管ができるなんて・・・」
「ウイルスなのか・・・もっと違う我々の知らない何かか・・・。だが、神秘の世界に足を踏みいる勇気は私にはないよ。」
「とにかく、あの気管を切除するのは不可能です。」
「切除すれば死ぬ・・・。だが、この気管を切除しなければ、完全に奇形化してしまう。」
「自分の胸にできた気管を知れば・・・・それを切り開きたくなってしまう。中には心臓などの臓器が入っているというのに・・・・。いったい、この症状はなんでしょう・・・」
「中に何かが入っていると思い込むんだろうな、あのクランケは記憶を封じているのでお腹に赤ん坊がいると思っている・・・・気味の悪い病状だよ。」
「あの、クランケ・・・秋田県の鹿角総合病院からの転院患者ですよね?」
「ああ、秋田のじいさん、ばあさんどもは騒いでいるよ。ムラサキカガミだって。」
「なんです、それは?」
「蝉だよ。セミ」
「せみ・・・・・ですか?」
「蝉は秋田の一部の地方では祭神として祀られているんだ。だが、ムラサキカガミという神は祟り神だって言ってたよ。」
「この奇病がその祟りだと?ははっ・・・それこそ、オカルトじゃあないですか」
「カガミっていうのは、秋田の鹿角郡では、蝉の胸の部分にある発声気管の事を言うらしい。この神は、呪いの声を夏の間、発し続ける。これを聞けば大人になる事ができないという伝説がある。つまり・・・・成人する前に死ぬわけだ。」
「蝉の神・・・ですか?」
「ああ・・・だから、善なる蝉の神はこのムラサキカガミの声が聞こえないように、蝉達を夏に一斉に鳴かせるんだ。」
「いったい・・・・あの病気はなんなんでしょうか・・・」
「私は伝説の類いは信じない。だが・・・一つ、科学では解明できない不思議な事がある。」
「あの症状だけで十分です」
「いいか、あのクランケは羽化しようとしている・・・」
「・・・・・・・・・・どういう事ですか?」
「彼女の皮膚の中には、外気に触れても大丈夫な程の別の皮膚ができているのだ。多くのこのケースのクランケは、胸の気管をこじ開け、羽化しようとしている・・・。いや、羽化という表現は正しくないな」
「体の中に別の新しい体ができているというのですか?それこそ蝉が幼虫から成虫になるように!」
「少し調べたんだが・・・人間の進化として、もっとも望ましい形の進化なんだよ。新しい体は、前の体よりも強力な抗体ができている事が確認されている。ギリシャ神話を君はしっているかね?」
「ええ、すこしぐらいなら・・・」
「蝉は太陽や暁の神の持ち物だという。復活や不死の象徴なんだ。我々は、ちょうど、人類の進化の狭間にいるのではないか?歴史的、いや、それ以上のものだよ。」
「人間の進化過程にそのようなケースは予測されていないはずです。」
「所詮、人間の思考は・・・・・限界があるという事だよ・・。」
「ムラサキカガミ・・・・・数々の自殺者に関係した言葉は・・・・すべて、人類進化の鍵を握って死んだと?」
「受け止めきれなかったのだ。もしくは進化の仕方を勘違いした・・・。どこで伝承や言い伝えが道を逸れたのかは知らない。だが・・・・・・『噂』とは・・・・そんなものだよ。我々の考えの及ばない風に進化していく。ウイルスと同じだ。生物が長い年月を経て進化していくのに対し、人の噂は幾つもの頭を作りながら進化していく。その生命力はプラナリアよりも強い。・・・・・皮肉なもんだよ。それに人類が踊らされるんだからな。人間は言語化する自由を与えられていると思って勘違いしているが、我々こそがその言語化された一部であるのかもしれない。」
「我々は・・・『言葉』ではありません・・・」
「そうだな・・・・・・・・・だが、もし・・・・神という、いや、それに近い存在がいるとしたら・・・人間をこのまま放っておくと思うかね?私だったら人間の体に選択肢をつけるよ。」
「選択肢・・・・ですか?」
「信じるか・・・・信じないかだ。対象は神でもなんでもいい。」
「じゃあ、ムラサキカガミの伝承を信じて死んでいった者は、人類の進化を信じ自殺したんですか?・・笑うしかない!!信じろといっても、無理な話です!やはり、オカルト的考えをお持ちなのは先生の方です!」
「だが、ムラサキカガミは人類の進化過程における重要なキーワードとなるかもしれない。もう我々は死を待つだけだろう。だが、二十歳をこれから迎える者たちは・・・・この選択を強いられるのだ。直視して、あのクランケのように狂ってしまう者も多いだろうし、勘違いして自殺する者もいるだろう。」
「私はこう思うのだよ」
「人間は記憶を保持する為の存在に過ぎない」
「それを保持する者は、次の世代への伝達者となる役目を持つ」
「伝達されたキーワードは形を変えて神話伝承、怪談、都市伝説となる」
「伝達者は役目を終え、死ぬ。広がる『言葉』はいろいろな要素を付け足し」
「丁度いい時期に受け止める新世代が誕生する」
「その伝達されたキーワードは、必ずしもすべてが正しいものではないかもしれない」
「だが、我々人類はその中から正しいものを選ぶしかないのだ。」
「人類として生きる為にあまたものキーワードの中から進化の真実を探すのだ」
「ところで加藤君・・・娘から聞いたのだが・・・こんな噂を知っているかね?」
「『イルカ島』という言葉を50歳まで覚えているとだね・・」
未完