目目連
いいかげん、中学卒業したら好きなタイプも若干変わってくるものと思っていましたが。
変わりません。
秀二君、これからもよろしくお願いいたします。
「最近、どうも町がおかしいんだ」
川梶秀二君がワタクシにいいました。
彼はワタクシ、江戸川蘭子と同じ塾に通う男の子です。
高校生になったら塾通いはやめたいと思っていたのです。
しかし、いかなくてはならないので困ったものです。
塾通いをやめたい理由はたくさんあります。
まず、中学時代にクラスが一緒だった「会いたくない方々」とまた顔を合わせなくてはならないからです。
頭の悪い私を陰で笑っているのです。
次はワタクシ、どうも塾の時間に眠くなる癖があるのでございます。
しかし、寝る事はありません。
眠くても寝れない事ってありますからね。
次は最近、プチ家出なるものが流行っておりまして、そうして家を出た男子女子が暗がりにたむろっております。
見ているだけで不快でもありますが、彼、彼女たちのバカにしたような笑い声がもっと嫌いです。
秀二君と一緒にいるといつも聞こえます。
家出ならもっと遠くに消えてしまえばいいと思うのですが、ワタクシの知った事ではありません。
でも、最近見なくなった顔も多くなってまいりました。
本格的に家出を計画していた者達です。
学校でも煙たがられていた悪い子たちです。
そんな街ですが、秀二君の言うような変だと思う変化は感じておりませんでした。
何が変なの?
ワタクシ、聞いてみました。
「最近・・・誰かに見られているんだ」
秀二君、笑わせてもらってイイかしら。
もうやめてよ。
「なんだよぅ」
秀二君半年前から言ってるじゃないの・・・・最近ってそりゃないわよ。
「だって、最近すっごく感じるんだ・・・・人の視線・・・いや・・・人じゃないかも?」
他に誰が秀二君に視線を?犬猫くらいは勘弁してあげてよね。
「違うんだよ。・・・・蘭子にはわかんないよ・・・」
この人、秀二君なんですが・・・自意識過剰なんです。
その時はそう思っておりました。
いや、今でもそう思っておりますよ。ええ。
そんな会話を交わしながらスタスタ塾に向かうのです。
いえ、秀二君とは特別他におつきあいはございません。本当ですよ。
塾に共に通うだけのおつきあいです。
「蘭子・・・」
塾帰りです。
ワタクシはナアニ?と応えます。
「やっぱり視線感じるよ」
感じません。
そうワタクシは言いました。
「蘭子・・・・お前、鈍感なんじゃないの」
鈍感じゃないよ。
すごい敏感ですよ。
「あっそ、いいよ、しばらくお前と塾いくのやめるわ」
ちょっと、なによそれ。
「いーいー、別のやつと行くよ、お前はわかってくれると思ったのに」
ごめんなさい!私が悪かった!だから・・・塾は一緒に行ってよ!!
「・・・・・・・・・じゃあ、僕の言う事も信じろよ」
わかった。信じます。視線でしょ。
「ほんとに信じるか?」
うん、はい。信じます。きっと、視線はあいつとか、あいつとかだよ。
ワタクシ路上で座り込んでいる悪い子たちや、自転車を堂々と盗もうとしてワタクシたちが通ったので睨み付けている悪い子の事を言いました。
「うん、多分、あいつらだよ。本当は素直なやつらなのにさ」
そうなの?
「そうだよ、人を見る目はあるよ僕は」
人を見る目?
ちょっと、それってさぁ。・・・・ま、いいか。
そろそろ暗くなっちゃうね。
「もう8時過ぎたしね、お、家、電気ついてるな、母さん帰ってるのかな」
秀二君は用意していた自宅の鍵をまたポケットにおしまいになられました。
いつ来ても新築のような匂い。
秀二君の家の匂いでございます。
秀二君の部屋は廊下の突き当たりのところにあります。
あらあら、ドアにはり紙が。
『トロをいい加減埋めろ 健司より』
健司さんとは秀二君のお兄様でございます。
トロとは秀二君が大切に飼っていた兎さんでございます。二週間前に死んでしまったのですが、悲しみに包まれた秀二君は死体を部屋にもっていったまま埋めていません。
その腐臭で秀二君の部屋はいっぱいであります。
私は鼻が悪いのでわかりませんがどうなんでしょう。
他の人には耐えられないぐらいなのでしょうか。
家族も誰も部屋に入りません。
鍵もかかっていますしね。
秀二君、ほんとよ、お兄さんの言う通りよ。
「いいんだよ、蘭子は気にしなくて」
鍵を開けて秀二君は自分の部屋のドアを開けました。
「蘭子、そろそろ家に帰るよな」
ええ、まあ。
秀二君は部屋に入ると鍵をかけます。
これで、もう食事以外は誰とも会いません。
秀二君は塾の鞄を放り出すとまず、懐から出した目薬を使います。
ああ、気持ちいい。
秀二君は押し入れの戸を開きます。
「よお、ただいま」
ただいま。
そこは私のアパートです。
5センチ四方の升が無数にある段ボールです。
ここにはワタクシのお友達の郁恵ちゃん、ミサ、川辺先輩、憧れの宮木さんもいます。
あれ、千鶴子ちゃん・・・・ちょっと茶色くなって水気がなくなってきたようですね。
大丈夫?
泉さんはなんか虫がたかっているみたいですが・・・あ、秀二君、泉さんを箸でつまんでゴミ箱にお捨てになりましたね。
あーあ、御愁傷様。
ずらりと並んだ『眼球』はすべてワタクシの知っている人たちです。
学校の悪い子たちでしたからね。
かくいうワタクシもそうでしたが・・・こうして秀二君のおかげで改心いたしました。
最近、みなくなった本格家出組、みーーーんな、ここに家出してきちゃってますの。
あ、そろそろワタクシおやすみ時間です。
ワタクシに秀二君の指が近付いてまいりました。
『蘭子の目』の部屋に入らせていただきます。
ワタクシ、心配なのですよ。
そろそろワタクシも変な匂いとかでてるんじゃないかって。
お兄さんが兎の死体が腐っていると思っているのならそれでもいいのですが。
秀二君、でももうワタクシの次の「蘭子」を予定していらっしゃるみたいですね。
それに、そんなに「視線」が気になるのかしら。
視線が自分に向けられている嘲笑と思っているのかしら。
秀二君はいってくれました。
「君の瞳に乾杯」
乾杯っていったって手に何も飲み物持っていないじゃないですか。
ああ、でも愛して下さっているのですね。
そうでしたか、では、その自分に向けられている視線にも「愛」を感じていらっしゃったのですね。
「変だ」というのも愛されている事に御謙遜されているか、照れ隠しなのでしょうね。
あらあら、妬んでしまいますよ。
秀二君はワタクシを御自分の顔からはずされますと、丁寧に升の中に入れてくれました。
そして、食事とお風呂を一緒に共にする村崎さんを代わりに入れました。
村崎さんはお風呂大好きですからね。
ワタクシ、塾は嫌いですが秀二君と一緒になる事が大好きです。
これでも真面目っぽい男の子が好きなのでございます。
昔はそりゃあ派手な女でございました。
派手な女が必ずしも派手な男を好きになるという事もありません。
同じような派手な悪い子たちは嫌いです。いやな笑いをします。
悪い子のみんなのようにワタクシもいつも秀二君を見ていたけど、決してバカにした視線でなく「愛」そのものでした。それが伝わったのでしょうか、秀二君は私をここに連れてきてくれました。
今度は一緒にずっといれるのですものね。
さて、戸が閉められてしまいました。
おやすみなさい、秀二君。
真っ暗でも寂しくありませんよ。
だって、秀二君。
みんながあなたを見れるように、戸にいっぱい穴を開けてくれているんだから。