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幻想住人録

 

カシマレイコ 四之章

 

「私の足はどこにありますか?」

 

私は伊集院沙苗に連れられ、彼女の家に来ていた。

沙苗は鹿島神宮の若い巫女である。

そこには沙苗と共にいた老女、トキと二人で住んでいるらしい。

両親の事を聞くにはまだ会ってからの時間が短い。

私はとりあえず、沙苗の出してくれた暖かいお茶をすすった。

「すべては・・・忌まわしい過去が起こした事なんです」

沙苗はうつむき加減で話した。

「平太郎さん・・・と呼んでもいいですか?」

「どうぞ」

沙苗は一つ溜息をつくと、男のように低い声で言った。

「たたら師は・・・・追儺の鬼だったのです・・・」

聞き慣れない言葉に私は眉をしかめた。

 「今でいう節分ですじゃ」

トキは砂糖菓子を私の前に置いた。沙苗は畳を見ながらそれを見届け、また口を開いた。

「平安時代から行われていた鬼やらいの儀式です。・・・・大晦日などに行われていましたが、今では変わりました。」

「あまりそういう事に知識はないんだが・・・たたら師という職業の者たちがそれと?」

「ええ、鹿島の村人から忌まれ、鬼の代わりとして」

「殺されたのですか?」

私は沙苗の鎮痛そうな表情を見て代わりに答えた。

頷く沙苗。

「私達、伊集院の一族は、そのたたら師の血族・・・・。村人から見れば、疫病・旱魃・天災などを村に導く悪鬼・・・・」

「姿カッコだけでそんな事になってしまうのか」

「昔はのぉ、今の現代人のように器用な生き方はできなかったのじゃ。・・・・何かの災いがあれば、伊集院を虐げ、殺し・・・それですべてがおさまると思っていた。異形の者はすべて堕落した山の神の末裔だとされて・・・妖怪視されたわけじゃ。」

普段、糖尿病を気にして甘いものを避けていた私だが、今は無性に食べたくなり、砂糖菓子を口に頬張った。ひどくうまく感じる。

「・・・伊集院尚史・・・佳子・・・・このどちらかの名前を知っていますか?」

沙苗とトキは顔を見合わせた。

そして、沙苗はさらに重苦しい口調で私に告げた。

「尚史は・・・・私の・・・父です」

 

何という事だ。

私が以前住んでいたマンションの、隣に住んでいたあのイカれた研究者が・・・事川信用金庫強盗殺人事件の犯人が・・・・彼女の父だなんて!!

そして、今私は何の偶然からか、その娘とこうして会っている!!

そして・・・・

「依子も・・・・伊集院の血族・・・・これは」

「はい、本当の事です。依子おばさんは、私達の家系です。伊集院という旧姓は消しているとは思いますが。」

どういう事だ?

「私の父は細胞の研究をしていました」

「ふん、あの親不孝もんが!!」

トキは憤慨からか唾を飛ばして怒りをあらわにした。

「お父さんは・・・依子おばさんと一緒に、ある研究をしていたんです」

「・・・・・計画?」

「今でいう・・・クローン人間のようなものです」

私は溜め息をついた。驚嘆の溜め息だ。こんな古風な女性の口からクローンという言葉が出るとは。

「たった二人でそんな事ができるはずがない」

沙苗は首を横にふった。できるというのか?

「一人の人間が犠牲になれば・・・それは容易な事らしいんです。」

「どういう事ですか?」

「分かりません。・・・私はそんな二人の研究がとても恐かった!!・・・・何の為にそんな事をしているのかは・・・・わかりましたけど・・・」

沙苗は白い着物から足を露出させた。

一瞬年がいもなくドキリとしてしまったが、すぐにそれは止んだ。

彼女の右足はうっ血しているかのようにどす黒くなっていた。

今まで足首まであった着物で分からなかったが、明らかに何かの病気であろうと感じた。

「私達の血族は稀にこういう足で生まれてしまうのです。」

「・・・・・・・トキ、しまうんじゃ」

「いいの、おばあちゃん、・・・・平太郎さん、この足は数年後には硬い丸太のようになってしまうんです。伊集院の昔を知る者たちは、殺された、たたら師たちの怨念だといっています。・・・・・村人たちを許すなという・・・たたら師たちの訴えなのだと」

「クローンの研究という非現実的であった事も、今ではできてしまう時代だ。・・・・・伊集院尚史は娘のあなたを救いたかった。そして依子も・・・・・・」

沙苗は涙をぽろぽろとこぼした。

「私は・・・今回の足切り殺人を知って・・・・確信しました。これは・・・・依子おばさんがやったのではないかと」

5年前に離婚した妻・依子が今回の足切り殺人の容疑者なんて信じたくはなかった。

そうだ、伊集院尚史の妻、佳子の指紋がビニールから発見されたではないか。

たしかに佳子は2年前に死んでいる。しかし、もし沙苗のいっている事が事実ならば・・・・・・・佳子のクローンが今回の事件を起こしたのではないか?

強盗事件で死んだ方がクローンかもしれない。・・・・・しかし、その佳子を殺害した者もいる。3人の佳子がいたという事か?

そして、夫の研究を外では煙たがっているようにしていたが、実はその研究に協力していたんだ。馬鹿げた嘘のような話だが、これは馬鹿げた嘘のような事件なのだ。

2年前に死んだ女が容疑者なんて、他にどんなトリックでできる?

私は突然、『仮死』という言葉が浮かんできた。

死んだと見せかけていた佳子の犯行なのだ!!

突然私の携帯電話が鳴った。警察の人間と娘しか知らない番号だ。

「もしもし今、私は取り込み中だ、あとに」

 

「私の足はどこにありますか?」

 

血の気が引いた。

別にそのセリフに恐れたわけではない。

聞き覚えのある声だったのだ。

「・・・・・・依子か・・・」

5年ぶりに聞いたが、忘れもしなかった。依子の声だ。

「依子・・・お前は・・・」

「・・・私の名前は違う」

「?」

「カシマレイコ」

今度は鳥肌が立った。

「おい、依子なんだろう!?」

「待ってるわ」

ブチッと何かがちぎれるような嫌な音で電話が切れた。

私は引いた血を取り戻す為にしばらく無言で目をつぶった。

「どうかしたんですか?」

「・・・・依子から電話があった」

沙苗は驚く様子もなかった。

「待っている・・・・そういっていた。そして、こう言っていた・・・・カシマレイコと・・・・」

私は立ち上がり、すぐに伊集院家を出ようとしたが沙苗がその腕を掴んだ。

「だめ・・・・あなたも・・・カシマレイコに殺される」

「馬鹿を言うな!!5年前まで夫婦だったんだ!!会って話せばそれはわかる!!」

だが、私はどこへ向かえばいいのか、どこに依子がいるのか分からないのに飛び出そうとしている。

「もし・・・・依子おばさんを止めて下さるなら・・・止めて欲しい・・・だけど・・・・あなたがこれから会おうとしているのは・・・・依子おばさんであっても、依子おばさんではないんです・・・」

私はいい加減にイライラしていた。

「絶対に止めてみせるし、あの声はまちがいなく依子だ。私は今から戻る!・・・・すみません・・また御連絡します」

そう言い残し、私は鹿島の地を去った。

 

 

私はK県S市にある自宅についた。

娘の美咲が入院している病院にも行きたがったが、まずは依子に会って真実を聞かなくてはいけないと思った。

私が依子に殺される?

ありえるわけがない!!

私達は憎しみ会って離婚したんじゃあないんだ。

離婚した理由はよくある理由だよ。

こんな形で再開する事になるとは・・・そして、私に依子はどんな言葉を投げかけてくるんだ?

電話番号が書かれたアドレス帳を開いて、彼女の離婚後の移転先を調べた。

実家には戻っていない。それはなんとなく分かっていた。

そんな忌まわしい過去のある故郷に戻りたいなんて普通は思うまい?

「ない!!」

たしかに私は彼女の移転先をメモしておいたはずだ。

だが、彼女はそこがどこだとも言わなかったし、私も聞かなかった。

ただ、電話番号だけがメモしてあったはずだ。

やはりない。

 

まてよ。

依子は依子ではなく・・・自分の事をカシマレイコと呼んでいた。

カシマレイコ。

カシマレイコ。

M高速道路か?・・・・・事件のあったあの場所にいると言うのか?

・・・・・・・そうか。

私は美咲の言葉を思い出した。

 

「うちの学校のトイレに出るんだって。」

 

そうだ。たしか美咲はカシマレイコという幽霊は学校の2階のトイレのどこかにいると言った。M高速道路にあるというのは「足」だ。

私はもう暗くなっていたが、美咲の通う、緑沢私立女子学園まで車のアクセルをほぼ全開に近くして走っていた。

 

 

夜の学校は大人の私でもさすがに気持ちのいいものではない。

宿直室には誰もいないのか?それとも宿直室はここからは見えない場所にあるのか、学校に明かりなんてものは一つもなかった。

私は車を校門の脇にとめ、エンジンをきってしばらく車内で様子を伺っていた。

心臓の鼓動を緩やかにする為でもある。

2階のトイレ・・・・美咲のクラスは新校舎だと言っていた。

だがどれが新校舎だろう。暗くて新しいのか古いのかも分からない。

こんな事なら、三者面談に私が行けば良かった。

親戚の世話好きな人に頼んでしまったが、美咲はどうやら私に来てもらいたかったようだ。

その時、ポッと一瞬だが懐中電灯のような明かりが北校舎の窓ガラスに映った。

2階・・・・あそこかもしれない。

私は今になって、鹿島の沙苗の言葉を思い出した。

・・・・・殺される・・・

それに、依子が本当にここにいるのか?私はいつも直感を信じ、そして事件と向かい合ってきた。

今はたった一人で、得体のしれない何かに触れようとしている気がしてきた。

もはや、そこに依子の姿は思い浮かばなかった。

車に常時置いてあるライトを手に握り私は校門を乗り越えて入った。

 

暗い廊下は私に恐怖の幻影を見せる為に、その為だけに静まり返っているような気がした。

ほんの少しの窓の外の木の揺れも、奇怪な手に見える。

私はすでに恐怖の幻影に捕われていたのだ。

依子がこんな夜の学校の女子トイレにいるはずがない。いや、まず彼女は美咲の通っている高校さえ知らないはずだ。

美咲と依子が密かに連絡をしあっていた事も考えられるが、それにしてもこんな場所を再会の場所にするなんて事は常人ではありえない。

だが、その常人ではない存在に導かれるように私はここにいるのだ。

それこそ、ファントムにとり憑かれたようなものだ。

私のライトが2階女子トイレの字を照らした。

外から見た位置だと、明かりがともったのはここのはずだ。

ライトを消して足音をたてぬようにトイレに近付く。

まるでトイレから冷気が流れてくるように感じ、肌がそれを察知し鳥肌を立てた。

なかば手探り状態で女子トイレに入る。

子供の頃、学校の男子トイレで嗅いだアンモニアの匂いは一切しなく、無臭だった。

「依子」

私の声だけが響く。

「依子・・・・いるのか?」

とても人がいる気配は感じない。

押しつぶされそうな虚無の雰囲気に私はライトを付けた。

女が立っていた。

長い髪の女が、顔を下に向けていた。

顔は髪の毛に隠れて見えない。

彼女には右足がなかった。

右足がないのに、まっすぐに立っている。

杖をつくでもなく、ただ、片足でそこに直立しているのだ。

「これが・・・・カシマ・・・レイコ」

私は思わず口に出た。

子供達の噂になっている恐怖の対象と私は遭遇したのだ。

 

「私の足はどこにありますか?」

 

女は低く陰気な声で言った。

「お前は・・・誰なんだ・・・」

依子ではない。

依子はこんなに背が高くなかった。

それに心無しか電話の声と違った。

伊集院佳子・・・・。いや違う。彼女は何度も見ているが、スカートをはいているところなんて見た事がない。

こんな真っ赤な血のようなスカートは。

 

「私の足はどこにありますか?」

 

声が気のせいか強くなったような気がした。

ここは美咲から聞いたように答えるしかないのか?

「M高速道路にある」

 

「誰に聞いたのですか?」

 

「・・・・カは仮面のカ、シは死人のシ、マは・・・・マは・・・・・」

思い出せない。

私はこんな馬鹿げた状況で、今までにない程の恐怖を感じている。

一人の女から、ただ謎かけをされているだけだ。

片足のない女と。

「マ・・・マは・・・・・」

 

「悪魔のマよ・・・・。あなた」

「・・・・・・お前は」

依子の口調だが・・・依子じゃない・・・・。

女は顔を上げた。

「・・・・・・美咲・・・・・」

入院をしているはずの美咲だった。

私はもう何も考えられなかった。

そう、毎日聞いていたにもかかわらず・・・まさかとも思わなかった。

声も美咲そのものだったのだ。

彼女の口から出る発言を待つしかなかった。

「・・・・いないのよ・・・美咲なんて・・・もう」

「なんだと・・・美咲・・・どういう事だ?」

「5年前に・・・美咲は死んだわ」

美咲の顔と声を持つその女は、あいかわらず片足だけで立っていた。

暗闇に私のライトが彼女の顔をはっきり写し出し、体をうっすらと照らす。

「お前は・・・誰だ・・・・依子なのか?」

美咲の顔の女は私をまばたき一つせず見つめる。

「美咲は伊集院の血を濃く受け継いでしまった・・・・そう、私のせいで・・」

目に慣れてきたのか私は目の前の女の姿がはっきりとしてきた。

片足などではない。

ないと思っていた足は、ひどくうっ血して黒くなり、棒のようになっていた。

沙苗の足に似ていた。こちらはすでに足としての機能がないようだ。

この変色の為、暗闇の中で足がないように見えたのだ。

「5年前に美咲は死んだ。片方の足が腐り落ちたのよ。私はそうなる事を知っていた。あなたはまったく知らなかった・・・・いや、知ろうともしなかったでしょうね」

「・・・・・・・お前は本当に・・本当に・・・」

「美咲の足の付け根に赤い筋が出始めてから、数日後に死んだわ。」

美咲の顔の女は私を冷徹な目で見つめている。

美咲の顔をした別人だという事がこれで確信が持てた。

「あのマンションに伊集院夫婦がいたのは・・・・私達の隣に住んでいたのは偶然じゃない。そう決まっていたの・・・・。すべては可哀想な美咲の為に。伊集院の呪われた血の為に」

声はいつの間にか依子の声となった。

依子と確信した私は、懐かしさは微塵もなく、それよりも今入院しているはずの美咲が気になった。

私はまだ理解していない。

だが、これだけは思った。美咲は二人もいないのだ。

私が美咲と思い一緒に生活を続けていた女は、私の元妻、依子だったのだ。

「なぜ・・・・なぜお前は・・・」

言葉は思ったように出てこなかった。凍結された空間の中で少しでも動けば緊張の糸が切れてどうにかなってしまうと思ったからだ。

「伊集院佳子が生きていると思っていたのね・・・・・現実主義のあなたにはない発想だわ。少しは変わったのかしら。」

「い・・・伊集院佳子は・・・やはり死んでいるのだな」

「彼女はただの実験材料。私達の村とも関係のない東京都民だった。彼女の夫、尚史は私達の血族の呪いを断つ為に様々な研究をしていた。しばらく伊集院の呪いは起きず、生まれてくる子も無事に育った。・・・・・だけど、私の娘・・・・そう、あなたの娘である美咲の足にあの印が現れた。私は絶望的になった。すぐに尚史を呼び、急いで研究の成果を美咲に・・・・・・と思っていた」

 「それは・・・効かなかったのか・・・」

「いいえ、あの女・・佳子が台無しにしたのよ。・・・・尚史の研究を疎ましく思っていた彼女は細胞配列蘇生プログラムのデータをすべて抹消した」

「蘇生・・・・不老不死ではなく・・蘇生?」

「壊死した細胞を蘇生させる人工プログラム・・・・。尚史はそれに自分の財産をすべて注ぎ込んで完成させたのに・・。・・・・だから、あの女を尚史と私が死に追い込んだ。・・・・・・彼女に、再度プログラムを作る為の資金調達をしなければ殺すと・・・」

「それが事川信用金庫の事件なのか」

「警察が来てもう駄目だと思ったのね。捕まって生きていた方がどれだけ良かったでしょうね。それでも、彼女は死を選んだ。さて、なぜでしょう?」

「そのヒントはお前のその姿か」

私の言葉に依子は笑むように口を歪めた。

「私達はもう一つの実験をしていた。それは・・・・人の姿を奪うというものよ」

「奪う・・・そんな事がこの現代に・・・」

「現代に復活させたのは確かに尚史よ。だけど、これは昔から行われていたの。」

「人間の・・・・摺り替えか」

「ドッペルゲンガーって知っているかしら。芥川龍之介はあなた読んでいたかしら?ジャン・パウルは間違っても読まなさそうね。・・・・私は佳子の顔や指紋、すべてを奪った。・・・・自分と同じ姿の幻影を見た者は死ぬ・・・というでしょ。奪う際に、彼女の体中に伊集院家の呪いの要素と同じものを入れたの・・・・彼女はそうなって死ぬ事を恐れ・・・自殺した」

「M高速道路で発見された彼女の足と指紋は・・・・依子、伊集院佳子の体を奪ったお前の仕業なのだな」

「そうよ。私はそうして生きてきた。もうね・・・・私の足は両足がないのよ。それどころか、私の本体ももうないわ。そして、佳子の体を使っていた時も、足の付け根に赤い筋ができてきた。私は足を捨てたの。線に沿って切ったわ」

話を聞けば聞く程、深い闇と、混乱、あとは例えようもないものが渦巻いてくる。

「美咲はどこにいる?」

「美咲に会いたければ・・・足を頂戴・・・」

「ふざけるな!!」

「美咲の体は・・・・ここにあるじゃない」

「依子、お前は最近まで佳子の体を使っていたはずだ。その間、5年前に死んだ美咲をどうしていた!!」

「大事に家に保存していたわ。美咲を失い、伊集院の呪いを断ち切ろうとした尚史も死んだ。私にはもう復讐しかない。・・・・・あなたの娘を演じながら、私は鹿島に住んでいた血族の者を探した。ここ数日で足のない死体が見つかっているでしょう?あいつらの家系は伊集院を化け物とし、追いやった奴らなのよ。」

「追儺か・・・・」

「あなた・・・沙苗に会ったのね?」

「ああ、とても彼女には伊集院の血が流れているとは思えなかった」

「沙苗は美咲とは違う。美咲は私の実の娘なのよ。私は美咲の体で復讐する事にしたの・・・。だけど・・・・やはり、美咲の細胞にもすぐに変化が現れた。」

「あの晩に出た赤い筋か・・・・」

「ええ、私は美咲が失った足と同じ足が腐り落ちると思った。美咲の失った足と同じ足の付け根に筋が現れたから。そして、これでは止まらなかった。赤い筋は両足に現れた。今は・・・見て、片方の足がもうすぐ死ぬ。私はもうすぐ両足を失うわ」

「カシマレイコの噂はお前の作り話か」

「ええ、だけど、カシマレイコは実在した。今ここに」

私は出したくはなかったがスーツのポケットから拳銃を出した。

「撃てばいいわ」

「・・・・・美咲はそんな事を望んでいたわけじゃない・・・・お前にもわかっているだろう?依子」

「あなたはすべてに無関心だったわ。結婚したのが間違いだった。美咲を産んでしまった事も後悔している。・・・・でも、もう遅い。」

「自首するんだ・・・依子」

「誰が私を依子だと思うかしら。誰が裁けるのかしら。それに・・・・自首はしない。復讐は終わっていないから」

「・・・・・私は愚かな男だ。美咲や依子、お前の事をもっと大切にすればよかった。一番懺悔しなくてはならないのは私だ。復讐されなくてはならないのは私なんだ。」

「・・・・・・あなたは、伊集院の事を何も知らない・・・。あなたは死ねばいい。でも・・・私もそう長くは生きないわ。、私は悪魔・・・・心が汚れたまま死ぬのよ」

「そんな事はない!!お前は・・・美咲の為に復讐をしているんだろう!?」

「美咲をふくめた・・・・『ムラサキカガミ』の復讐・・・」

「・・・・・なんだと?」

「カシマのカは仮面のカ。カシマのシは死人の死・・・・。カシマレイコはデスマスクをかぶった悪魔なのよ。」

彼女は私の見ている前でもう片方の足を黒くさせていった。

まるでビデオを早送りにしてみているように、左足は染まっていった。

両足が黒く変色した彼女は、暗闇に浮かんだ足のない幽霊のようだった。

私が声をかける間もなく依子の両足がボロボロと崩れ、彼女の体は冷たいタイルに叩き付けられた。

「あ、ああ・・・・終わりが近付いてきたわ・・」

「お前は・・・私をここへ何の為に呼んだんだ?真実を聞かせる為にか?」

「・・・・・あなた、もうすぐ50歳の誕生日ね・・・。イルカ島に気を付けて」

「なに・・・・よ・・依子!・・・・・依子ぉぉぉぉぉっ!!!!」

 

 

 

数日後、緑沢私立女子学園の新校舎の2階の女子トイレで変死体が発見された。

それは、入院中であったはずの三月美咲だと判明した。

入院していた病院では別の惨事が起こっていた。

三月美咲の担当をしていた看護婦が何者かに殺害されていた。

そして、2日前、転院してきた患者8名が謎の急死を遂げた。

そして・・・・・。

 

4日後、三月平太郎警部は自宅で電話器の前で何者かによって殺害されていた。

死因は両足を切断されての出血多量であった。

彼は床に血でこう書いていた。

 

ムラサキ

 

 

 

カシマレイコ 完

 

 

 

 

 

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