カシマレイコ 三之章
「私の足はどこにありますか?」
茨城県鹿島君鹿島。
南部には臨海工業地帯があり、町としてはそれほど賑やかな歓楽街などは見られない。
鹿島神宮の鳥居をすぐに見つける事ができた。
私はここで何をすればいいのか?
来たはいいが目的を見失った私は、最初のガイシャの母親の実家に行く事を考えた。
そう考えている時に何か尺八のようなものの音が聞こえる。
暗く哀しい音色であった。
それは鹿島神宮の鳥居の奥から聞こえる。
私は何気なく、音色に誘われるように入っていった。
火が焚かれ、白い巫女姿の老婆が火中に白い札のようなものをばらまいている。
その後ろではもう一人の若い巫女が尺八を吹いているのだ。
なんとも不思議な光景だった。
「旅のお方かね」
老婆の巫女が声をかけてきた。
「え、ええ、はい。先程つきました。・・・・これは何をされているのですか?」
「御霊を鎮めておるのじゃ」
「・・・・・みたま・・ですか」
老婆の巫女は若い巫女に尺八を止めるように合図する。
「そうですじゃ。この鹿島神宮では毎年季節ごとに、たたら師の御霊を鎮めておるのですじゃ」
「たたら師・・・・とはなんですか?」
「製鉄の歴史を作っていったもの達ですじゃ。たたらとは、風を送るふいごの事ですな。」
「その霊を・・・・・こうして鎮めているのですか」
なんだか私には場違いな気がして、話を早めにきりあげ場を去ろうとした時、先程、尺八を吹いていた若い巫女が近付いてきた。
「たたら師たちは、火の色加減見る為に片目で見、交代でふいごを足で踏んだといいます。だから、片目と片足を煩っていた方がほとんどだったのです」
「その姿は妖怪のように伝えられたわけですな。一つ目で、一本足・・・。足を切らんといかん風にまでなったものも多いですじゃ。・・・・その姿を誇りにする者もいたが、たたら技術が衰退すると共に人前から隠れる者も多く、自害する者もいたというですじゃ。」
「足をわずらい・・・足を切る・・・」
私は巫女たちの話の中で自分がもっとも気にかかったキーワードを口に出していた。
「ここの祀神は『布都御魂(ふつのみたま)』という剣(つるぎ)でしてな、神話などで語られているんじゃが、神はこの剣の上に座ったというのですじゃ。これは、忌むべき事を神事として隠しているのですな」
私はさらさらそんな世界に興味はなかったが、嫌な予感がしていたので黙って聞いてみる事にした。
「その剣は、たたら師の患った足を切るのに使われたものなのですじゃ。たたら師たちの怨念の血が染み込んでいるのですな。この剣は歩けんなるほど片足を病んだ者の足を切ってきた。正しくはこの剣は、歩く事をやめた者達の御霊を宿した、『不通の御霊(ふつうのみたま)』という名前になるとも言われているのですじゃよ」
私はここでも足というものに関わってしまった。
まさに、足を取られているわけだ。
鹿島神宮は他にも藤原鎌足や蘇我入鹿と関連づけられているそうだ。
鎌足が幼少の頃、その足元に、狐が鎌をくわえて置いた。そして、彼は「鎌足」という名前を付けられたのだ。
その置かれた鎌で入鹿の首を切ったという説がある。
その鎌も鉄なわけだ。
私はそんな話を聞きながらふと、若い巫女の顔が気になった。
どこかで知っている気がする。
巫女は私の目をじっと見て、口を開いた。
「間違っていたらごめんなさい。三月平太郎さんではないですか?」
私は突然名前を呼ばれたのと、彼女の視線の呪縛が未だ解けていないのとで、応答できなかった。
「・・・・・依子おばさんからお話は聞いています。お顔も写真で拝見させていただいています」
「!!・・・・・・依子を知っているんですか!?」
若い巫女は静かに頷き、そして、そのまま地面を見たまま口を開いた。
「あなたがここへ来たと言う事は・・・・・やはり、あの事件は・・・おばさんが・・・」
「こんな馬鹿な話が・・・はは・・・・・足切り殺人は・・・依子が関わっているってのか!?何の理由があってそんな・・・」
そして、老婆は持っていた札をすべて火に投げ入れた。
風に灰が舞い、まるで黒い吹雪が吹いているような錯角に陥った。
「すべては・・・たたらの血がいけないんですじゃ・・・」
「一体・・・あなた方は・・・」
困惑する私に次に発せられた言葉は、神に嘲笑されているかの如く、何かから見放された気持ちになった。
「私たちは、たたらの血族、伊集院家なんです」
「・・・・伊集院・・・」
「そう、おばさんも正しい旧姓は伊集院依子・・・・・。依子おばさんは毒気にやられてしまったんです・・・・。たたらの血を怨む、毒気に・・・・・」
私の鼓動は今までで最高の心音数を記録した。
私の足を返して