鬼街〜かくれんぼ
狐章
色が狂うと申しましょうか。
この街には、普通の人様の頭(かうべ)の中で考えられる色とは全く事なる色が多すぎます。
それは自己主張。
その自己こそ何処にあるものやら、なんぞとお聞きしなさんな。
いつしか言いましたよねぇ。
この街では支配するものが幾つかあると。
おや、支配という言葉は初めてでしたか。
おや、支配の意味もわかりませんか。
すみません、実はこの街では幾つかの支配する力があるのです。
はい、そうです。もちろん、それぞれ、支配している領域、といいますかモノが違います。
だから、支配されている側さんは、笑ってしまう事ですが、それに気が付いていません。
支配するものが鬼であろうと、蟲であろうと、人であろうと、大きな思考を蜘蛛の巣のように張り巡らせてみれば、すべてこの街が支配している事に気が付くのです。
こんな語り口調も飽きて参りましたな。
では、これから遊ぶ子供達を見て、また聞きたくなったらお聞きくださいな。
ちんとんしゃん
ちんとんしゃん
始める前にやっぱり少しお話を。
古びれた工場はもう数十年使われていない鍋工場だった。
錆びた臭いと、羽蟲の死骸の乾いた臭いが鼻につく。
ここでは、街の子供達が集まってある遊びが始まるのを待っていた。
それは、子供達のルールの中で、決められた日に、決められた人数が集って遊ぶものだ。
でも、それは大人の関与する事のない、子供達だけのルールだ。
もちろん、子供達の夜の街へのある衝動が、主たる遊びの原動力なのだから、これは当然、大人の口出すところではない。
もう、数刻前からこの工場には子供達が集っていた。
8人の子供達。
遊びといっても、外は夜光蟲の世界だ。
形、絵柄の違いはあれど、みんな『狐』と呼ばれる空想状の生き物の面を被っている。
吊り上がった細い目と、尖った耳、横に裂けた口。
『狐』はそんな四つ足の獣だという。
これから遊ぶ、かくれんぼは昔は「穫霊穂」「隠異歩」と字を当てられ、収穫祈願の行事であった。
収穫神、またはその使いとされたこの『狐』が稲穂の間に隠れているのを探すのである。
稲穂の根付く大地は踏まれて、強く育つ。
そして、『狐』を捕まえる事ができれば、その一年の収穫は安泰を約束されるのだという。
その行事の為にこの狐面が作られたというのに、今では蟲除けだった。
・・・・というわけで、この鍋工場には狐面を被った子供達が8人集まっていた。
不思議な事に、この遊びは必要以上に人数が増えない。
いくら待ってもこれ以上人が集まらないのは、何かの力が働いているのだろうか。
じゃあ、そろそろ遊びが始るので、全て御説明しましょう。
まず、ここでは「かくれんぼ」とは呼びません。
いつ誰となくこの遊びは
『トコトコさん』
と呼ぶようになりました。
『トコトコさん』は定員が七人。あれれ、一人多いですねぇ。まあ、それは後程。
ルールは簡単。
街の中を走り回って、鬼から逃げ回るのです。
最後の一人になったらこの遊びの勝利者です。
そうそう、「かくれんぼ」が土台になっていますが、『追いかけっこ』なんです。
鬼に見つかっても逃げ切れれば大丈夫。
だけど、見つかったら逃げる事なんてできないから「かくれんぼ」と同じなんです。
見つからないように。
今回の参加者、御紹介しましょうね。
あそこにいる三人、太っちょ、チビ、眼鏡の三人ですよ。
あれはこの街の悪ガキ三人組なんです。
出っ腹大将はノシガくん。オナカに魔除けの入れ墨しています。親に無理矢理入れられたんですと。
おチビちゃんはスクくん。
なんだか、やる気なさそで、だらんだらんと腕を振っています。
眼鏡っこはタチジくん。
金髪もじゃ毛のオシャレ(?)な子です。
凸凹トリオですね。
あっちでずーっと動かず、何も喋らない二人組は・・・・双児でしょうね。
インムくんと、ヤンクくん。
面も服の色も対照的な二人、さっきから全く動かない、喋らない。
姿形は全く同じ。
さっきから、どこを彼等は見ているんでしょうねぇ。
奥でたった一人でしゃがみ込んで、蟲籠に入っている「夜光蟲」を眺めている白い着物の女の子・・・。この集まりでたった一人の女の子なんですね。
名前はわかりません。
知ってても教えませんよ。女の子だもの。
その女の子をずっと見ている男の子。ヒコラくん。
男の子は横で喋っているお友達ヤイマオくんの声も耳に届いていないみたいで。
ずーっと女の子を見ているのですからね。
ヤイマオくんはそれでもヒコラくんに話し掛けてます。がんばれがんばれ。
はい、こーれで8人。
どうします?
あなた、『トコトコさん』に飛び入りで参加します?
え?
危険はないかって?
こんな狂ってしまいそうな程暗くて、明るくもない不思議な光を発する街で、
子供たちが何のリスクもない遊びを欲しますかねぇ。
そうですか、わかりました。
じゃあ、そこで見てて下さいな。
遊びの合図をしますから。
もういいかぁい・・。
続く