鬼街〜かくれんぼ
鬼章
ねえ、しってるかい?
お父さんやお母さんが絶対にお話してくれない、禁じられた遊び。
わたしたちは多分、誰からも教えられて無いのに、知る事になってるんだね。
すごいよねえ。
大人たちは今頃、お蚕さんのお世話で大変さ。
さあ、飛び出そう。
こんな夜はもう二度とは来訪ない。
こんなに毛の穴がざわめく日は無いんだからねえ。
私達は知っているのさ。
この街に跋扈する鬼が、自分達を遊び相手にしていることを。
そうとも、知っているのさ。
私達は、大人達が束縛しないこの日、この刻・・・この熟し過ぎて膨張した街で、命が張り裂ける程楽しい禁じられた遊技ができる事を。
楽しやぁ。
楽しやぁ。
私が知っているのは4匹の鬼の事。
私達がこの遊びをすると、建物の陰から、壊れたネオン燈の中から、濁った闇の中から鬼達がやってくる。
私達がこれからする遊びは「かくれんぼ」。
鬼が必要だよ。だけど、鬼はこの街で用意してくれる。
「油取」「子取」「血取」「胆取」。
4匹の鬼は、親の目を盗んでこの殻倶駄(がらくた)広場に集まった子供達をもう始めっから視ているんだって。
そして、かくれんぼの開始の合図と共に子供達が散るとね。
4匹の鬼たちはゆっくりと動き出す。
街の隅々に子供達がまんべんなく散ったのを確認したら、初めて鬼たちは追いかけるのさ。
ええ、そりゃどれも無気味に嬉々喜々と嫌な笑い声を口からこぼしながらね。
さて、4匹の鬼、どれも油断がなりませぬ。
しゃんしゃん。
「油取」は一見は大きな壺に手足が生えたようなものだ。
壺のような体には多数の目が描かれて居る。
身体はよくわかりませんが、ああ、ほれ、大陸のお祭りに出るような龍の舞い。
あんな感じに細く長い身体です。
視た事もない字で埋め尽くされた布切れを身体に纏っていますから、本当に異国の鬼かもしれません。
この鬼は大きな両手で子供を叩き潰し、自分の壺のような頭の中に油を入れるのです。
しゃんしゃん。
「子取」は銀色の針金に包まれた化け物。
あまりにぐるぐると包まれているので、その中身は誰も知りません。
これはね、針金で子供を縛ってさらうのです。時には縛り過ぎて子供の輪切りができたとか。これは笑えません、ああ、笑えませんとも。
おそらく過去に捕獲したものでしょう。「子取」の腰から針金で引きずられている「トコヨ」のマユのような幾つもの物体は・・・・・取られてぐるぐると巻かれた子供達なのでしょう。
「子取」はこれを武器とし、装飾としております。
中の子供はいつの時代に生きていた子供達でしょうね。
しゃん、とん、しゃん。
「血取」は恐ろしい形相をした、人の形の鬼。
筒状になった槍と、断頭台の刃のような広刃の刀。
これで好き放題、殺し放題するわけです。
この鬼は血を取る。
血を取って、どこかに納めているのです。
この「血取」は後始末という言葉を知らないと見える。必要以上の血が取れた時は狂喜し、乱舞する。その乱舞は見るものを魅せる恐ろしい血踊り。血祭り。血饗宴。
余った血を漆黒の掌になみなみと注ぎ、街の至る所に擦り付けては、この場所その場所赤く塗りつぶす。
この鬼に気に入られた場所は、いつ行っても生々しい血で湿っている。
だからお気に入りの場所へはいってはいけないよ。
しゃんしゃん。
これが4匹目の鬼となります。
「胆取」は残酷すぎた。
その外見で油断してはならないよ。
派手な電光掲示板に包まれたこの鬼は、まさに街と一体化した存在。
頭や胴体なんてどこにあるのか知りません。
看板が重なっているようにしか、私には見えませんからねぇ。
そんな姿だから街にはなじみ過ぎるのです。
どこにいても可笑しくない。どこであってもおかしくない。
鬼が陰や角から出るなんて法則は、この街にはあてはまらない。
「胆取」に出会ったら気を付けな。
この鬼が身に付けている、おぅおぅ、いやいや、身体の一部なんでしょうが、派手な看板の伝える眼成字(めっせぇじ)。
つまらない色の古道具屋の看板や、泥瞑しそうな色の飲屋の看板が常ではない。
どんな看板にでもなりうる。
ある時は、優しい言葉をかけるかもしれない。
電光看板に『お待ちなさい』『甘い甘い飴をあげようかい』なんて書いてあってもだまされちゃいけません。
そりゃあ、近付いたらさ。ほれ、この鬼は大きな鉄製の杓子を持っている「鬼」だ。子刎(すぷーん)と呼ばれるその鉄杓子で子供の首を斬っては、その断面に手を突っ込んで中の胆を取る。子供の腹をそれで直接えぐって、腹の皮ごと内臓を抜きとってしまう事もあるそうです。
しゃんしゃんしゃん。
え、子供のクセにその語り口はやめろだって。
いつから私が子供で、いつから大人になったかなんて・・・あんたにわかるのかい?
そういうもんはこうしてわかるもんだ。
今から子供達を見るんだろう?
それにしてもさ。子供達はわかりたかったんだねぇ。
鬼がいるってのにさ。
この街を、外を、現実を。
知りたかったんだねぇ。
続く