いるか島 第4話
「私は鹿島の『カ』は、イルカのカではないかと考えていました。事実、そのように書かれている書物もあるのですが」
国吉の言葉に金子は驚きを表情に出していた。
「ちょっとまって下さい。教授はイルカという言葉が事件に関わっていると・・・・・どこで知ったのです?」
「いえ、多分、あなたちが考えているイルカとは違うものですよ」
「違うイルカって?」
渚がイライラしているのが分かる。
「作者不詳の歴史物語に『大鏡』というものがあります。これは鹿島明神と藤原鎌足を繋げているものがあるのです」
「・・・・・・は・・話が見えませんが。すいません、勉強不足で」
「渚知ってるよ!歴史で聞いた事あるもん!そのカマちゃん」
「名前ぐらいだったら、俺だって知ってるって!」
「ここで面白いと思ったのが・・・・鎌足という名前の起源です。『鎌』と『足』」
「鎌に・・・・足・・・・・なるほど」
「名前の起源は・・・・『ダキニ天』の化身である狐が幼い彼の足元に鎌を置いていったという伝説がありまして、『鎌足』と称したという話があります。この鎌は『曽我入鹿』の首を切ったものとする話もあります。・・・・まあ、鎌足は、本名は『鎌』であり、鎌足の『足』は、敬称にあたる語尾であるといいますがね」
「あ・・・・」
渚と金子が同時に声をあげた。
その様子を見て国吉がニヤリと笑った。
「『曽我入鹿』・・・・イルカです」
「だめだ・・・ここまで来ると本当に混乱してきた・・・事件の鍵どころか・・歴史の勉強しなおさなくちゃいけない状態だ・・・・。俺、三月さんが何を調べたいのか分からなくなってきた」
「入鹿と鎌足の足に関わる話もあるのですよ。入鹿が中大兄皇子を位につけないように企み、法興寺の庭で蹴鞠をしている皇子の沓が脱げて地に足を付けさせようと計った時、鎌足が右手で足を受け、それより彼は出世したという話なんですが・・・・」
「まあ、とにかく足が関連はしていますが・・・怪談のカシマレイコと関連するかなんていったら・・・」
「考え過ぎって感じだよね」
国吉は、まるで勿体ぶるようなそぶりでゆっくりと口を開く。
「だが・・・もし、これが昔の伝承などではなく・・・ここ100年の間の事であったら?」
国吉の言葉にリアリティーは感じられなかった。おそらく本人もそんな馬鹿げた話はないだろうと思っている。
「歴史はくり返す・・・・みたいな事??」
「ええと・・・加藤さんでしたか?いい事いいますね。入鹿は父から紫冠を授かり、大臣として認められた。それから彼は上宮王家の討滅を謀ったわけです。彼の陰謀はやがて彼自体への滅亡に繋がるのですが・・・暗殺によって首を斬られた入鹿が、屍となっても害をなしたという伝承があるほど・・・呪いの力を持つ存在であると考えられたのです。なにせ、目の視線の力で物を落とす程の邪眼をもっているとまでいわれた程です。・・・・これほどまでの呪いの力を受け継いでいるものがいてもおかしくないでしょう」
「それは・・・作られた話でしょう?」
「もちろんそうです。現実にあり得ない。・・・・ですが、これも真実が隠されているとは思えませんか?たたら製鉄はこの時代からあった。入鹿はたたら製鉄を行っていた一族と関連があるのでは?と・・・」
「俺は刑事という仕事で、ここまで難解な捜査にぶつかった人間をドラマでも見た事ありませんよ。・・・・しかし、たたらと関連していたとどうして思うのですか?」
「差別的な表現にはなると思いますが、片目を失った事により独眼となったものが神秘的な力を手に入れるという・・・様々な方向性から考えられる説があります。ケルト神話にもバロールという悪魔がいて、常に閉ざされた目が恐ろしい力を発揮するという話もあります。・・・・入鹿は・・・たたら製鉄者の末路のように・・・片目で・・・片足であったとは考えられませんか?」
「・・・・」
「これを見て下さい。『神明鏡』という古い書を私がわかりやすくしたものです。」
入鹿大臣、国の政我任にして、天下を蔑にせしかば、中兄皇子と鎌子と計を廻らし、入鹿が頸を鎌にてかき切りけり。
入鹿が屍を、父豊浦の大臣が許へ遣わす。
大いに怒りて、火中に入りて死にて大悪鬼と成る、と伝えり。
鎌子をば、鎌足と申す。大織冠と申しけり。
「頸をかき斬ったというのは・・・足の事ではないかと思ったわけです。片足であった入鹿にとってこれほど屈辱な事はないでしょう。・・・・・そして、足を斬った鎌子は鎌足という名前をもらった・・・」
「歴史の事はよく知らないが・・・・それが本当ならば歴史的大発見だと思いますよ。結局はたたらが関係しているわけですよね」
金子の表情にも疲れが見えてきた。
「ねーー・・・結局なんなわけ?これってさ」
「わたしが考えるに・・・たたら製鉄は昔は大きな役割を持った事業であった・・・・。製鉄とは別の役割を持っていた・・・。曽我家はそれで財を築いた者たちであったのではと・・・」
「他の目的があった?製鉄の他にですか?」
「私が考えるに・・・疫病に関するなにかの鍵を握っていたと思うのです。製鉄はその疫病に関連する何かを作る為に必要な作業であり、あえて危険をおかしてでもやらなくてはいけないものであったのではと・・・」
「疫病ってさあ、今では治るものでも、昔って大変な病気になってたわけでしょう?風邪ひくだけで死んじゃったりもしたらしいじゃん」
国吉が幽霊のようにゆらりと窓際に立った。
「・・・・もし、今でもその対策がないなら?もし・・・その病が現代に復活してしまったら?」
「国吉さん・・・あんた・・・『カガミ病』と繋げようとしているのか?」
国吉は頷いた。
「金子さん・・・まだ私に何か伝えていない重要事項があるんじゃないんですか?」
「なになに?大人の会話ストップだってば!」
「ええ・・・実は・・・・・三月警部の娘さんが入院していた病院に・・・・秋田の鹿角郡からの8名の転院患者がいたのですが・・・突然同じ日の同時刻に急死しました」
「その8名は・・・」
「ええ・・・胸に蝉の発声気管のようなものができる・・・・『カガミ病』です」