拾 →┃← なんの棒ですか。
あの、お尋ねしてもよろしいですか?
そうそう、あなた、あなたにです。
僕って、何の棒なんでしょうか。
いえね、恥ずかしい話なんですが、僕は自分を知らないんですよ。
でも、とにかく、僕を拾った人はみんな、
「これって何の棒なんだ?」と言って首をかしげるんです。
その「首」ってのも僕にはないし、人のように何かを拾うという事をする手も、移動手段の一つである足さえもないのです。
ただの棒。
そう、みんな結局、「ただの棒なんじゃない」
で済まされ、また捨てられてしまうのです。
ただの棒ってなんですか?
何の目的もない棒って存在するんですか?
いや、それが石とか木の自然物ならわかりますよ。
でもそれなら、「ああ、変わった石だな」とか、「木だね」でもいいでしょう?
ただ「棒」って言われたって、言われてるこっちの身にもなって下さいよ。
ただの棒ですか・・・。
棒ですよ?
こんな機能的なフォルムの物体を何にも使わずに捨ておくなんて、人ってやつはわかりませんよ。
きっと、何かの穴に合うように精密に作られ、しっかりと何かを固定し、何かを回転させる為にその中心で鎮座する・・・そんな役割が僕にもあるはずなんです。
そりゃあ、贅沢を言えばねぇ。
もう少し、彎曲していた方がいいとか、少し切れ込みがあった方がいいとか、先端が球状になっていた方がいいとか・・・・色々ありますよ。
え?電気で動く方がいい?
何に使うんですか?
・・・・・・・・・とにかく、そう「だだの」「ただの」と言われ続けて、ぽいぽいぽいぽいと捨てられ続け、今、この町にやってきたわけです。
ちゃんと電車にも乗って来たんですからね。
みんなの足に蹴られて、邪魔だ、邪魔だとはじかれながらですがね。
教えてくれませんか?
私は何の棒なんです?
あ、せめて色だけでも教えてくれませんかね。
・・・・・・すいません、聞いてもどんな色かわかりません。
色って、一つではないんでしたよね。
人様に見える色が、決して全てのものに見える色ではないんですよね。
あれ、ねえ、聞いてます?
ちょっと・・・・え?
臭いって・・・・僕がですか?あ・・・待って下さい!!
僕はなんだかわからない棒なんです!
僕が臭いなら、その臭いに何かヒントが・・・
・・・・・・・ダレデスカ?
今度は誰ですか?
今、逃げてった人みたいに、また僕を捨てるんでしょう。
その額に書かれている「肉」・・・・という字・・・・なんだか懐かしい気が。
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・・・
臭いのはあなたでしたか・・・。
こんな僕でも臭いがわかるなんて、あなたすごい臭いの持ち主ですね。
何の臭いなんでしょう。
「ただの棒」である僕にもわかる「この臭い」。
え?
「ただの臭い?」
・・・・・・・・また「ただの」ですか。
ちょっと・・肉の方、そんな所から棒を・・・ちょっ・・・・まずいですって!!
「おい、棒!!・・・・これは『くせぇ棒』だっぺよ」
肉さん、あなた、そんな声だったんですね。
そのタンクトップの破れ目から出した棒。その臭いだったんですね。
でも、うらやましいなぁ。
「ただの棒」ではなく「くせぇ棒」なんですね。
肉さん、僕を拾ってくれるんですか?
どうせまた捨てるんでしょう?
こうして僕は肉の人のお店の店頭に置かれた。
お薦め商品として!!
しかも、お得な「くせぇ棒」とのセット!!
誰かが買ってくれるまで、僕はずっとこの「くせぇ棒」と一緒にいるんです。
・・・・・・・・嫌なものだなぁ・・。
ある日、僕は買われた。
鼻の穴が鼻毛で覆われて詰まっているアルピニストに。
だけど、鼻毛のアルピニストはセット買いではなく、僕の方だけを買ったんだ。
「この『臭くない棒』だけください」
そう言って。
何の意味を持たなくても。
誰に必要とされなかったとしても。
僕はきっとどこかへ行く事は運命なんだ。
この町へ来た時と同じだ。
どこにもはまらないパズルの1ピースだったとしても、きっといつか、僕があてはまるはずのパズルの空きがあるはずなんだ。
空間に僕という棒が存在する限り、僕がいる空間は僕を縁取っている。
つまり、世界は僕の為に棒の形に、僕の居場所を常に空けている事になるんだ。
さあ、アルピニストの御主人様!!
僕をどんな使い方するんですか?
この『臭くない棒』めを、自由自在に、縦横無尽に、臨機応変にお使いなさい。
よく見て下さい。登山にでも何でも使えるんじゃないですか?
僕の声が聞こえたのかどうかは知らないけど、
鼻毛のアルピニストは僕を自分の鼻に突っ込んだ。
あれ。
続