屁
俺はどうすればいい。
今まさに浅香ラヴは爆発寸前だ。
そうなれば彼女は確実に死ぬ。
俺もだ。
いや、それどころかこの街の住民にも大きな被害が出る。
かといって、彼女をここにおいてみんなで避難するか?
・・・・・それはやめよう。
多分、これからずっと・・・俺は人の影で生きていかなくてはならない。
ならば・・・せめて、アイドルを救った男として名前だけでも残そうじゃないか。
しかし・・・何ができる。
俺に・・・俺に・・・。
「いやあああ・・・・痛い!!痛い!!」
「今何とかする!!我慢しろ!!」
「ええ!!我慢はダメなんでしょ!?」
「馬鹿!!今は我慢するんだよ!!それがいっぺんに出てみろ!あんたの腹を突き破って、この街をそのガスが消滅させちまう!!」
「え・・・そんなに爆発しちゃうの?」
「いや・・・大袈裟だったか・・だけどすくなくとも、この近辺はぶっ壊される!・・・空のヘリコプターだって墜落してどっかに突っ込んじまうぞ!」
「おならって、重いんじゃないの!?」
「馬鹿ヤロウ!!それをただの屁と勘違いするんじゃねえ!!ケツの穴がなあ!!人間の頭と逆転するんだ!!スッポコペロンのアギアギなんだよ!!屁の常識はもう、この世には通用しない!!」
「なにいってんのよーーー!!!」
マンションの扉が開かれた。
驚く俺の瞳に映ったのは・・・菊子の姿だった。
「なんで・・・お前ここに・・・」
菊子の後ろには『タタカツ屋』の主人と境骨もいる。
「あんたら・・・」
「カズキくん、間に合って良かった!!何か、力になれればと思ってね」
「何なんだよ!この展開!!」
境骨は俺に一本の円筒形の物を手渡そうとする。
「なんです、これは・・・」
「スッポコペロンのアギアギを解く鍵・・・・オロロン・プルリンだよ」
「あの・・・・・馬鹿にしてませんか?」
「大真面目だよ、ほら」
境骨は無理矢理、その物体を俺の手に握らせた。
「これでなにをすれば・・・」
「その筒であんた、オナラ吸い込みなさいよ!」
タタカツ屋の主人、鈴木宗男だ。
「え?」
「やはり・・・人類は今話しているこの口が・・・口でなくてはならない・・」
境骨は自分の口を指差した。
「そして・・・今ある尻が・・・・尻でなくてはならない!!!!」
「・・・・・・まことにその通りでございます」
そうしか俺は言えなかった。
「人口問題・・・汚染問題・・・株価暴落・・・・緊迫する世界情勢・・・・・。今、人類の頭が逆転して変わったところで・・・彼等には何一つ解決できはしない。我々でさえ解決できていないのだ」
境骨は空を見上げた。
「だから・・・まだこの世界は我々が変えなくてはならないのだ。我々が責任を持って・・・問題を解決せねばならないのだ。もう彼等・・・尻が頭の人類は・・・その事を理解しはじめた・・・今は自分達が頭になるべきではない・・・とね」
「そっそー、そーなんだよね。だからね、上の頭が抵抗しているんだよね。つまり・・・これは・・・人類の肉体をかけた・・・上の頭と、下の頭の戦争だったってわけだよね」
「じゃあ・・・俺の屁は・・・」
境骨は頷いた。そして、彼は菊子を見た。
「彼女は・・・下の世界からやってきた・・・親善大使なのだよ」
俺は菊子を見た。悲しい笑顔で頷く彼女。
「実は・・あなただけではなく・・・もっと多くの人が・・・自分の体の異変に気がついていたのよ。それがここ最近、急激に激しくなった。上の人類が・・・私達にウィルスをばらまいたの。最初は我慢していたわ。だけどもう我慢できなかった。私達は・・・はじめは脅しのつもりで数人を爆破させた。」
「ミサキも・・・康男もその数人か・・・」
菊子は泣き崩れる。
「私の意志じゃない!!下人類の国王が・・・・。」
「菊子・・・・それで・・・どうなってしまう?」
「・・下の人類は・・・・逆に上の人類もろとも・・・攻撃する事に決めたの。送られたウィルスの影響で私達はくしゃみをする。わたしたちにとって、このクシャミは命に関わるわ。そこの彼女のように・・・」
ラヴは泣くのに疲れたのか、呻きはじめた。
「だけど・・・上の奴だって、そんな事したら自分達も危険だってわかってるはずだろう?」
そこで境骨が口を開く。
「脅しのつもりで少しづつ攻撃していたんだ。しかし・・・それに怒った下人類は・・・それを一気に爆発させてやる事にした。あるいは・・・そこの女性のように・・・自分達の口を『くしゃみ』が出ぬように塞いでしまったのだ。」
「一度おくられた屁のウィルスはなかなか消せないんだよねー」
太った主人は人ごとのように両手を広げて言う。
「菊子・・・境骨さん・・・俺は・・・どうすればいい・・・」
「む・・・」
境骨は突然言いにくそうな表情をした。
菊子もだ。
「俺の尻が下の世界から来た親善大使なんだろう?じゃあ・・・ここは俺が何とかするしかないって事だろ?それで・・このオロロン・プルルンを俺に渡したんだろう?」
「オロロン・プルリンだってばあー、もうー」
境骨は覚悟を決めて口を開く。
「君は・・・尻を失う事になる・・・」
「・・・・・なんだって?」
「尻を・・・失うんだ」
「・・・・・・・・・・・はあ、で・・・意味は?」
「君も・・・自分を失う・・・」
オロロン・プルリン。
これはメッセージの入った筒だった。
下の人類全てに向けての、上の人類からのメッセージ。
世界中にメッセージを伝える為に、このオロロン・プルリンを使うのだ。
しかし、この装置は威力が少ない。
ブースターが必要となる。
そこで、今、爆発寸前の浅香ラヴのガスを「ブー」スターとして利用しようというのだ。
彼女の肛門にこの筒を差し込み、俺はその筒を口でくわえる。
彼女から放出されたガスは物凄い勢いでこのオロロン・プルリンを通過し、俺の体を通過し、俺の尻から放出される。
その威力は凄まじい。
俺は体の中の全てをガスによって吹き飛ばされて、肛門からそれらを放出して死ぬ事になる。尻も・・・菊子もその爆発の威力で吹き飛ぶだろう。
しかし、そうして、増幅されたガスメッセージは、世界中に広がって、下の人類達に届くというわけだ。
親善大使であるという菊子は、本当はその為にこうしてやってきたのだろう。
あんなに優しくしてくれたのは・・・いつか来るこの日の為に・・・俺に対する哀れみの行動だったわけだ。
もし、俺がここで何もせずに、ラヴの爆発で死んでしまえば・・・親善大使である菊子も死ぬ。
それは、上と下の人類の本当の戦争の火蓋を切る事となるのだ。
俺は覚悟した。
ミサキ、康男・・・お前達の無念は俺が晴らす。
あっちで待っていろよ。
父さん、母さん、先立つ不幸をお許し下さい。こんな理由で。
「菊子・・・・」
「ごめんね・・・カズキ・・・・。ごめんね・・・」
「いや・・・今まで・・・短かったけど・・・幸せだった・・・。いや、こうしてお前と運命が共にできるだけでも・・・心底幸せだ・・・・」
「カズキ・・・・私・・・本当にカズキの事・・・いや、はじめは正直に言えば・・・そうじゃなかった。だけど・・・・もう・・・カズキを好きで好きで・・好きになり過ぎちゃって・・・・・この任務からも逃げちゃって・・・カズキと一緒に遠くへ逃げようなんて・・・思ってたの」
俺はそれだけ聞けば充分だった。
本当に俺達には愛があった。
俺は菊子の唇に自分の唇を重ねた。
何度も、何度も。
その時だけは誰も口をはさまなかった。
五月蝿いのは上空のヘリコプターだけだ。
俺は菊子の唇の柔らかさに微睡んだ。
同時に、嗚呼、俺は自分の肛門に唇を重ねている、、、と思った。
でも、今はそんな事はどうでもいい。
いいじゃん、自分のケツの穴をこんなに愛せたんだ。
「最後のキスが・・今朝食ったカレーの味だな」
「おいしかった?」
「へへ、どうせそれだって俺のクソから作ったんだろ?」
「うん♪」
「こ」
俺は境骨の方を向いた。
「じゃあ、言って来るよ。ラヴのケツに」
「検討を祈る・・・そして・・・すまんな」
「がんばってよ、もー」
俺は菊子の肩を抱いて、ラヴの方を向き、ふと考えてまた境骨達の方を向いた。
「なあ、結局、スッポコなんたらとか、オロロンなんたらとか、なんなんだ?そんで、あんたらなにもんだ?」
境骨とタタカツ屋主人は顔を見せあった。
「いつか・・・・すべての人類にわかる事さ・・・」
「そっすか・・・」
再び、ラヴの方へ向いて、オロロン・プルリンを強く握った。
「ちょ・・・さっきから聞いてたら・・・あんたたち・・私のお尻に何するって!?」
ラヴは慌てた声をあげているが、愛を誓い、死を共にする事を心で誓った俺達の耳には届く事はなかった。
俺は大きく膨らんだラヴの体の真上に向いている、埋没した肛門目指して彼女の体によじ登った。
菊子もそれに続く。
「あんたたち!!何処に向かって・・・それ・・刺す気!?ちょっと!!ちょっ・・・おーーーーーーいっ!!!」
肛門埋没地点まで上がり、ふと、菊子とマンションの下を見下ろした。
下にはさっき見た時よりも数十倍に人が増えていた。
「おい、あれ。屁五郎じゃねぇか!?」
「おお、屁五郎だ!」
現場のおじさん達。
「ねえ、あの人、前にうちの会社をオナラで首になったっていう・・」
「竹美!!竹美カズキ!!・・・そうよ!!竹美よ!!」
「オナラと言えば・・・カズキだもんね!」
「じゃあ・・・あいつ、なんとかしてくれるんだ!」
「きゃー!がんばってー!!カズキーーー」
「ステキー」
前の会社の馬鹿OLたち。新人の恵子ちゃんも応援している。
なんだ、もう屁が原因だという噂が広まっているのか。この騒ぎ。
その横では念仏を唱えるみたいに、元・上司の中根とラヴのマネージャーが手を合わせている。
いつの間にか下では「カズキコール」が起こっていた。
「よかったね、カズキ。ヒーローだよ」
「じやあ、菊子・・・お前はヒロインか」
「最後に・・・私の本名・・聞きたくない?」
「聞きたくない」
「・・・わ・・わかった・・・じゃあ・・・やろっ」
大きな噴出音が街に響いた事は記憶にある。
俺はベッドの中で目が覚めた。
終わったのか・・・。
そして・・・俺は生きている??
腹の中が・・・腸が吹き飛ぶくらいに苦しかったのに・・・。
俺は生きている。
菊子は・・・どうしたんだ?まさか・・・。
いや・・・俺が生きているんだ。菊子も生きているに決まってる。
この病因に入院しているのか。
いや・・・彼女の存在はまだ知られてはいけないはず。
じゃあ・・・下の世界に帰っちまったのか。
という事は・・・・やっぱり・・・終わったんだな。
涙が出てきた。
また菊子と会えるだろうか。
「馬鹿ね、いつも一緒にいるじゃない。たまには鏡で見てね」
そう聞こえた気がする。
また俺は目を閉じて、深い眠りに落ちていった。
「はあ?お前、何言ってんだ?」
「いや、だから、俺は命と屁をかけてラヴと世界中の全人類を救・・」
「お前、盲腸の手術後で、屁を待ち望むあまりおかしな夢見たんだよ」
「康男、夢じゃないさ。そんな事言うなよ」
「じゃあ、なんで俺は生きてんだよ!」
「ん?そういえば・・・そうか、助かったんだな・・康男」
「はあ?」
「とにかくな、俺は愛してしまったのさ。菊子をな」
「それって、ケツの穴の事だろ?」
「そうだよ」
「そういうことか・・・な・・なるほどな・・」
「おい、康男どこいくん・・」
「うっせー!おめぇ、近寄るなよ!!」
「何言ってるんだよ!俺の尻とお前の尻は親友なんだぜ!」
「うっせ!ばーか!俺はそのケはねぇ!!」
「待てよ、康男!!」
「ばーかっ!!馬鹿!!馬鹿!!近寄ったら殺すぞ!!」
康男は部屋を出ていった。
菊子、まだまだ上の人類は頭がかたいよ。
完