屁
最近どうもおかしいんだよな。
あ、また・・・・・・。
ごめんごめん(汗)
いやいや、本当におかしいな、こりゃ。おい、笑い事じゃないんだよ。
「おめぇ、何喰ってんの普段?」
「ごめん」
「まぢで普通こんな場所でするか?」
「悪かったよ」
「ってゆーか本当くせェよ」
「だから謝ってるじゃないかよ」
友人の音母康男(おんぼやすお)はもう小学校からの付き合いになる。
今となっては俺もヤツも立派な社会人なわけだが、あいかわらず康男は口が悪い。
それでも呉生命なんて保険会社で客相手にニコニコ仕事してるらしい。
康男の働いている呉生命と俺の働いている大照不動産は同じビルにある。
だから昼飯は一緒に食べている。帰りはいつも康男は残業で遅いが、潰れる寸前の俺の会社は定時に帰る事ができる。
しかし、いつになく怒ってるな。
確かに食堂で屁をされたんじゃ怒りまするな。
「カズキ、臭いは我慢するけど音は止めろよな。見ろよ、あそこのテーブルの親父、さっきから見てるぞお前の事」
「ああ、知ってるよ。だってしかたねぇだろ、生理現象なんだしよ」
「んだから時と場所を選べっつーの!!音つき、臭いつき、あとロフトでもついてんのかこの物件は」
「あと15分で昼休み終わるぞ」
「やっべ、カズキの屁で食い損なっちまうよ」
「竹美!!竹美カズキ!!」
昼飯を食べ終わって事務所に戻って直後に上司に呼ばれる。
そんな大声出すほど広い事務所でもないクセに。社員だって6人じゃん。
突然呼ばれたショックで少し音のない屁を漏らしてしまった。
「なんですか?」
「お前・・・いいや、ちょっと来い」
上司に呼ばれて廊下に出ると、真顔で言われた事は・・・クビ。
これまたショックで放屁。音はあったが外の車のクラクションにかき消された。
クビの理由は、俺が接客して物件案内した客たちからの苦情。
そりゃあ、「はじめまして」から「さようなら」までずっと俺の屁のバックミュージックがかかっていたら苦情の一つもくるよな。って・・・・接客相手全部からかい!!
とほほ。
力ない放屁をしながら俺は定時4時間前にビルを出た。
無職になってしまった。
がっくり肩を落とす俺の姿は、道を歩いている人たちに哀れむような視線をもらうのにいいフォルムだ。
わかってるような目つきしやがって、ちくしょう!!無職な男の屁でもくらいやがれ!!
・・・・・・・・・・・
かなり大きかったな・・・・。
ちょっ・・・女子高生が悲鳴あげて逃げたぞ。どんな屁だ。
しかし、おかしいな・・・ここ一ヶ月・・・俺は絶えず屁を出す男に成り果てた。
成り果てたって表現あってるか?ま、いいけどさ。
しかし・・・朝起きちゃブー(目覚めが良い)。
20分の通勤電車じゃ2分おきにブー(電車の音に上手く誤魔化す)。
タイムカードおす前にブー(気合いが抜ける)。
イスに座る前にブー(最初はブーブークッションのせいにするため持参したものだ)。
隣の新人の恵子ちゃんに愛想笑いついでにブー(だんだん笑ってくれなくなった)。
たまらず俺は外の物件案内専門にさせてもらって事務所にいないように心掛けていたが・・・それも無駄に終わった。
一体なにがあった・・・俺の体よ。腸が悪いのかな。病院いっときゃよかった。
あ・・・・こんな真剣に悩んでいる時に・・・くそ!我慢してやる!!
尻がむずむずする。
腹がゴポゴポなる。
尻が熱くなる。
熱くなる。熱くなる。
この俺の尻のデッドヒートを覚ます事はもはや無理だ。
熱くなった俺のマイ・ファート!!
あ、ファートは英語で屁だって。スペルはfartね。
それにしてもタチの悪い事に我慢すればするほど、予測される爆発威力は倍増していく。
「だめだ!!」
俺は走って、人気がないビルとビルの間の細い路地に入り込んだ。
解放だ!!
俺はいつかこの屁で人を殺すんじゃないだろうか・・・・。
近くにあったゴミバケツの蓋が俺の屁の勢いでUFOのごとく華麗に飛んでいった。
いや、気のせいだ。そうさ。
最近が気づいた事だが、俺の屁はその場面によって頻度やサウンドボリューム、臭いのパターンが変わる。
たとえば、電車の中では緊張している為か2分おきだ。微妙に臭い。
接客している時は振り向いたり、相手の質問に答える時に鳴る。臭いはそれほどでもないが、音がバカにしたようにかん高い。
時々、部屋を見せている時に連続で発射されることもあり、こうゆう時は殺人的なスメルを発する。これは俺の尻が意志を持っているのではと思ってきた。
つまり、俺がこんな時に出ないでくれ、という時に出やがるのだ。
とにかく今晩、康男に相談に乗ってもらおう。
あいつもこんな相談されるのも嫌だろうが。
その日の夜、康男に会社をクビになった事を電話で告げると、残業を早めに切り上げて俺のボロアパートにビールを持ってやって来てくれた。
「くせェ部屋だなあ。お前の屁が充満してるぞ、げっ・・・壁黄色いのも屁か!?」
「タバコのせいだよ・・・まあ、座ってくれよ」
俺は康男に座布団を出した。
「なんだこの座布団、綿が出てるぞ、こんなのしかないのかよ」
「・・・・・全部俺の屁ですり切れたんだよ・・・・」
「・・・・・・・・・・・じゃあ・・・・これでいいよ」
康男は座布団の上に尻をのせるとテーブルの上にビールとつまみを乗せた。
「とりあえず飲もうぜ、屁の成分になりそうなのはないと思うから安心しろよ」
屁の成分をちゃんと知ってるのか。
酒は不思議だ。
酒が入るとどうやら屁は出ないようだ。
肛門がゆるむから出やすくなると思いきや、そうでもない。
「いいじゃんか、もう出しまくっちゃえよ、な?こんなコンクリートジャングルでなにを悩む事がある?」
お互い酔っている。康男は今どき聞かない言葉を挿入しながら意味不明の事を言っている。
「出すさ。制御できないんだから出すしかないよ」
「なんかの本で読んだんだけどよ、デンマーク?たしかそうだと思うんだけど、屁が原因で手術中に死んだ奴がいるらしいぜ」
「死ぬ?」
「おお、ようはあれってガスなわけじゃん?手術中に爆発して腸がめちゃくちゃだってよ」
「やめろよそんな話・・・・あ、出た」
「そーそー、我慢していると毒だよ。なぁに、仕事なんてお前くらいの年ならいくらでも見つかるって」
俺は数発の放屁をしながら康男の言葉を聞いていた。
「カズキ、だけどな、お前、腹だけはこわすなよ。ゲリしてる時の屁はきついもんだぜ」
「む、それは深刻だな。・・・・病院いくよ、その前に」
俺の尻は眠りの泥に沈む直前まで活発に鳴っていた。
ある日の事だ。
俺はまだ無職だった。
なぜかというと、あれから屁の数が増えたからだ。
そして音まで大きくなっている。
テーブルの上のコップが共鳴するほどだ。
尻が悲鳴をあげているようだ。このままどうなるのだろう。末恐ろしい。
よって外にはとても出れたものではない。
だから病院にもいけないわけだ。
とにかく暑い日だ。
汗が出る。屁は出る。エアコン故障中。彼女はいないときたもんだ。さらに無職で金もない。
おりゃあ、最低人間まっしぐら状態なんじゃあないかな。とにかく今は引きこもりだ。部屋で屁を「ひり」こもりだ。
ゲームもほとんどクリアしたものしかないし・・・あとはクソゲーだけか・・。
そういえば、屁ゲーとはいわないな。まあ、クソにもなれん中途半端な存在って事か。
さぁて、いよいよ、実家に逃げ帰り時かなぁ。
・・・・・・・・・。
ノック音だ。
しかし、インターホンぐらいつけてくれないものかね、このアパート。
「はぁい」
ドアを開けると、香水の匂いがムッと鼻を刺激した。
なんと、目の前に俺が今まで会った事もないほどのかわいい女の子が立っていた。
年は・・・俺より一つ二つ下くらいか。
茶色のロングストレートの髪の毛。大きな瞳に、ちょっとぼってりとした唇。
白いブラウスにジーンズ生地のタイトスカート。白い肌。
俺は部屋の中の異臭が彼女の鼻の穴に入るのではとドアを閉めようとした。
「待って!!」
少し低めだが美しい声だった。彼女はドアを両手で押さえる。
「な・・・なんすか、宗教なら俺、興味ないっすよ」
「違うんです!・・・どうか、私と一緒に暮らしてもらえませんか!?」
ドラマの効果音のごとく俺の尻が鳴った。
続く