クトゥルー 魔界監視局
煙羅煙羅
えんらえんら
別名
●煙々羅(えんえんら)
●烟々羅(えんえんら)
『百鬼夜行拾遺』に記されている煙の妖怪、または精霊。
様々な形になりながら、大気中をさまよっている。
竈(かまど)や風呂場で立ち登った煙の中に、男性とも、女性とも付かない表情をする。
時には、獣の顔も見せるという。
特に悪い事をするというわけでもなく、ただ、現れ、消えると言う。
また、焚き火の煙が一所に固まって動かない事もあり、これも「煙羅煙羅」であるとされた。
「しずが家の
いぶせき蚊遣(かやり)の煙むすぼほれて、
あやしきかたちをなせり。
まことに羅(うすもの)の風にやぶれやすきがごとくなるすがたなれば、
烟々羅(えんえんら)とは名づけたらん」
鳥山石燕(とりやませきえん)の『今昔百鬼拾遺』から。
多田克己氏の解釈によれば、しずが屋とは、
賎が屋(しずがや=卑しい・貧しい屋)のことを示していて、
「蚊遣(蚊火)」とは、蚊などの害虫を追い払う為に、
杉葉などを燃やして煙を立て、燻し出す事である。
そして、煙は結ぼほれ(絡み合って解けにくい)るように渦巻いている。
「羅」は、薄く織った絹布で、石燕は蚊遣の煙のたなびく様にみたて、
「煙々羅」と名付けたようである。
また、「紗(しゃ)」も「羅」と同じく、粗い透かし目のある、絡み織りの一種で、
横糸一本に縦糸二本を交差させ、もじり目を織り出す。
石燕は羅・紗の目が「煙羅煙羅」の目に等しいと暗示しているのである。
そして、「羅紗(らしゃ)」といえば、
羊毛で織った毛織物「緬羊(めんよう)」のことでもあるが、
その音から「面容(めんよう=顔のようす)・「面妖」などの語呂遊びも含んでいる。
こうした織物との関係から、「しずが屋」は「賎が屋」ではなく、
「倭文(しず=麻・楮〔こうぞ〕などの横糸赤・青などの色に染めて、
乱れ模様に織ったもの)が屋」とも読める。
石燕の「煙々羅」の文章は、さらに、様々な意味が、暗号のように含まれている。
まず、「いぶせし」は「燻せし」ではなく、「訝し(いぶかし)」にもなり、
これは、気が滅入るとか、憂鬱だとか、心配、怪しむ等の意味となり、
蚊遣(かやり)は、下に籠って燃え、燻ゆる(くゆる=くすぶらせる)事から、
悔ゆ・悔いるなどの枕詞となり、密かに思い焦がれる恋の歌の序に使われた。
さらに「蚊遣」と「茅屋(かや=茅葺きの屋根)」を掛けているようである。
「煙」は「けぶり」と同じで、煙の意味の他に、心中の晴れない憂鬱な気分を意味する。
「結ぼほれ」は、「結ぼる」と同じで、
悩みなどが凝り固まって晴々としない様子や気が滅入ることを示す。
「あやしきかたち」は「怪しきかたち」という、意味だけではなく、
「あやし」と読め、貧しい、みすぼらしいという意味や美貌という意味もある。
または、「綾(あや)模様」を織り出した美しい絹などの意味も暗号で含まれている。
全体的な解釈で見てみると、
「賎が屋」の方の解釈ならば、貧しい家の人が憂鬱の中、
煙の中に見た人の姿の幻の事であり、
「倭文の屋(しずのや)」ならば、煙の中に美しい、着物を着た人を発見した、
もしくは、
恋い焦がれる余り、その恋人の幻影を煙の中に作ってしまった。
そこで、この妖怪の名前の起源ではないかという、「閻羅(えんら)」が存在するが、
その「閻」は「見目麗しい」という意味があるという。
さて、上記した、「閻羅」とは、なにか?
これは、死後の世界の支配者の一人で、日本では、
「閻魔大王」として、あまりにも有名である。
中国では、「閻魔王(えんまおう)」、また単に「閻羅(えんら)」と呼ばれる。
実は、「煙羅煙羅」の名称がこの、「閻羅」からとったといわれる資料がある。
中国の怪奇小説『聊斎志異(りょうさいしい)』の中にある。
その資料の「閻王(えんおう)」という一遍に、
山東省の李久常(りんきゅうじょう)が、郊外で酒を飲んでいると、
そこへ旋風が迫ってきたので、彼はうやうやしく、酒を地に注いで、
それを祀った事があった。
すると後日、路傍に壮麗な楼閣宮殿がたち、そこから一人の侍女が、丁重に彼を招いた。
中に入ると、冠帯をつけた王者のような荒々しい人物が待っていた。
彼は恐れ平伏すると、王はねぎらって言った。
「怖がるには及ばぬ。
いつぞや酒を一杯馳走になった礼がしたかったのだ」
つまり、かの旋風は、「閻羅王」であったのだ。
また、密教では護摩(ごま)を焚いた炎の形で吉凶を占い、
そこには仏の姿が現れるという。
煙羅煙羅・現代に現る
京都市内の家で、実際これと遭遇した女性がいる。
ある晴れた朝に、部屋の掃除をしていると、
奥座敷に寝かしてあった赤ん坊が突然泣き出した。
女性はいそいで、奥座敷に戻ると、畳の縁から白い煙のようなものがわらわらと出ている。
そして、みるみるそれが、泣叫ぶ赤ん坊を覗き込んで見ようとする、
女の姿になろうとしている。
女性が悲鳴をあげると、巻き戻し中のフィルムのように、煙は畳に吸い込まれていった。
そして、消えた途端に赤ん坊の鳴き声も止んだという。
水木しげる先生の資料に、面白いものがある。
それは、「煙羅煙羅」の体を独自で図解にしているものである。
史実上のものではないが、面白いので、以下に記載しておく。
「煙羅煙羅」は、古い寺の屋根裏辺りに棲む。
体の構造は、体内に幾つかの機関を持つ有機体のようである。
ます、体内に、火打ち石を持ち、出現したい時に、これを打ち合わせて、火煙を出す。
そして、風送り袋があり、足下から空気を吸い込んで、火を起こす助けをする。
あとは、煙袋から、煙を発生させる、粉を出す。
敵に遭遇すると、口から煙を吐く。
主食は煙やところてんなので、歯はない。
現在妖怪チャットにも出現するが、
こちらも害はなく
ただひたすら愛煙家である。
出身
日本 竈や風呂場など、煙のあるところすべて
出典
●『怪 第弐号 メキシコ』 水木しげる 荒俣宏 京極夏彦 宮田登
カルロス・カスタネダ 宮部みゆき 角川書店
●『幻想世界の住人たち「〈日本編〉』 多田克己著 新紀元社
●『現代妖怪談義 妖怪現わる』 中山市朗 遊タイム出版
●『図説 日本妖怪大全』 講談社+α文庫 水木しげる
●『世界の妖怪全百科(オールひゃっか)』 監修/聖 咲奇 小学館
●『妖怪おもしろ大図解』 水木しげる 小学館
●『妖怪画談』 水木しげる著 岩波新書
●『妖怪クイズ百科じてん』 水木しげる著 小学館
●『RPG幻想事典 逆引きモンスターガイド 東洋編』 ヘッドルーム編著