幻想住人録

クトゥルー 魔界監視局

猫鬼

びょうき

 

猫を締め殺して、七七四十九日の間、これを祀り、

その霊を呪殺、あるいは、財産を奪う為に使う呪法、また、その使役する霊。

また、年を経た「山猫」の精を変化させたもの。

蠱毒(こどく)の一種。

『隋書(ずいしょ)』『北史』に記されている。

 

『ネコ その歴史・習性・人間との関係』には、このようなことが書かれている。

南北朝時代(430〜530年ごろ)に、この「猫鬼(びょうき)」が流行し、

隋(ずい)の大業年間(605〜616年)には、非常に盛んになった。

この「猫鬼」とは、日本の「おさき狐(尾が裂けた狐の憑き物)」の起源で、

これよりももっと残虐である。

ある書によれば

「老猫を飼って毎夜、子の刻(ねのこく)に猫鬼なるものを祀り、

これと思う人間にとり憑かせると、猫鬼は、その人間の臓腑を喰って殺してしまい、

さらにその人間の財物を、猫鬼を祀る家へ、人知れず運ぶ」

という。

このような「猫鬼」の流行は由々しい社会問題であるとし、

当時の中国政府はその撲滅に乗り出す。

「誅戮(ちゅうりく)を受けるもの数千余家」というひどい有り様だったが、

隋(ずい)の滅亡とともに、「猫鬼」の迷信悪習も跡を断った。

・・・というようなことが書かれている。

ここでは、「猫鬼」が、日本の「おさき狐」の起源だといっている。

確かにこの時代には「蠱物使い」と呼ばれる者たちがこれを自在に使っていた。

 

また、中国の「独狐陀(どっこだ)」という者が、

これを使って、自分の姉である皇后と褄の義理の姉を呪ったという。

 

先ほど記したようにこの「猫鬼」は、「蠱毒(こどく)」という、

虫や動物を媒体として呪いをかける呪法で生み出される妖魔の一つで、

これに憑かれた者は、体と心が針で刺されるように痛み、腹が引き裂かれるように痛み、

血を吐いて死ぬ。内臓を食い付かれているのだから、当然である。

 

病気というものの中で、腹痛を訴えるものも多くある。

これは、病気ならぬ「猫鬼」が、あなたに使役されているのかもしれない。(作者談)

 

 

この他に中国には、似たようなもので、姿の見えない猫の妖怪で、

「猫C(びょうしょう)」というものがいる。

これも、似たようなものというより、「猫鬼」の一種であろう。

また、こんな種類もいる。

一人の老婦人が、ベッドの上に何やら猫のようなものが入ってきたと感じて、

病気になり、現実感を失った。

しかも何者かに「自殺しなさい」「死になさい」と促され、

そそのかされている心理に陥った。

燃犀道人(ねんさいどうじん)という、医者の記した

『駆蠱燃犀録(くこねんさいろく)』によれば、このようなものを、

「病猫鬼(びょうびょうき)」というのだそうで、薬を処方した。

それで、一時はおさまったが、その家は裕福なのに、薬代をけちるので、

服用を続けることができず、老婦人は、せがれが受験の為、

郡に行ってる間に縊死(首をくくって死ぬこと、ちなみに中国には、縊死をした者が、

その一部始終をみせるという「縊鬼(いき)」というものがいる)をとげてしまったという。

ここで登場している「病猫鬼(びょうびょうき)」も「猫鬼」の一種だろう。

 

最初の方に記したが、まずこの「猫鬼」を使役する為には、

猫を絞め殺ししばらく祀らなくてはならない。

これは、清の慵訥居士(ようとつこじ)の『咫聞録(しぶんろく)』の

「猫鬼神」信仰の項に書かれている。

また、林琴南(りんきんなん)著の『鉄笛亭瑣記(てつてきていさき)』に書かれた

「猫鬼」の作り方は、

作者のように猫好きなものなら、見るに耐えがたいものである。

まず、猫を飼いならしておき、近ごろ1歳前後で死んで葬られた赤ん坊があると、

深夜猫を抱いてその墓へ赴く。

赤ん坊の死体を掘り出し、禹歩(うほ=片足をひきずって歩くこと。また、呪文を唱えつつ千鳥足で歩くこと。婦人が外出する時に、陰陽師が行う邪気を払う呪法でもある)して、

猫の首を斬り、赤ん坊の死体の首も斬り、その首を猫の腹の中に入れて念呪をかける。

すると猫は、人面猫身となって生き返り、以後その者の命令に甘んずるということである。

 

 

水木しげる先生の描く「猫鬼」は、黒と、紫色の体毛を持ち、

「猫又(ねこまた)」のように、尾が二つに分かれている。

先ほど記した、「おさき狐」起源論から、連想したものか?

 

 

出身

中国

日本

 

出典

●『幻想世界の住人たち。〈中国編〉』  篠田耕一著  新紀元社

●『幻想世界の住人たち「〈日本編〉』 多田克己著  新紀元社

●『幻想動物事典』 草野 巧著  シブヤユウジ画  新紀元社

●『大辞林』  三省堂

●『中国妖怪人物事典』 実吉達郎  講談社

●『ネコ その歴史・習性・人間との関係』 木村久弥著  法政大学出版局

●『妖鬼化(むじゃら)世界編《東ヨーロッパ・北ヨーロッパ・中国》 悪魔編』第七巻  ソフトガレージ  水木しげる

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